生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

北九州1泊2日の旅 その2 武雄温泉-波佐見町

吉野ヶ里遺跡公園の見学を終えて、佐賀市内で夕食をとり、武雄温泉を目指す。嬉野温泉という選択肢もあったが、より落ち着きのある武雄温泉に宿泊することにした。日もすっかり暮れたころに到着。宿は多喜男温泉尾ランドマークとなっている楼閣からすぐの街…

北九州1泊2日の旅 その1吉野ヶ里遺跡

弥生も末も二日、春の陽気に誘われてり久しぶりに吉野ヶ里遺跡へ行ってみようと思った。縄文遺跡しかり、弥生時代しかり古墳時代までの古代遺跡には何故か惹かれるものがある。巷では何か新しい発見があると、すわっ、邪馬台国か?となりがちな古代史である。し…

ツキノワグマ問題を考える-真の原因は?

柿の木に登るクマ 2004年 テレビでも新聞でも今年のクマによる人身被害が頻発しているとの報道が相次いでいる。特にテレビでは同じ画像を繰り返し、視聴者の恐怖心をあおることに腐心しているかのようだ。それに対して、山の実りの不作が原因との識者のコメント…

タイ旅行の思い出 2 初めてのカオヤイ国立公園

バスを乗り継いでなんとか無事、宿泊予定のパームガーデンロッジへたどり着いて、腹ごしらえも済んだところで、いざ、カオヤイ国立公園へ。マダムが運転する車で、ひたすら北へ向かって走る。カオヤイとは広大な山というほどの意味らしいが、まだその山は遠くにあり、…

第3次命の森やんばる訴訟ー証人尋問

伐痕調査風景 2023年6月9日木曜日、午後2時、福岡高裁那覇支部において表記訴訟の第1回口頭弁論が開かれ、原告側証人として法廷で証言してきましたのでそのときの様子について報告します。 第3次命の森やんばる訴訟とは 沖縄島北部のやんばると呼ばれる森林は、本…

タイ旅行の思い出 1

今、BS日テレでタイを鉄道で縦断する旅を放映しているのを見て、なんだか懐かしくなった。ここ10年ほどはタイを訪れていないが、これまでに10回ほど通った国である。その最初が2002年9月下旬のことだった。流れる映像と記憶に残る映像に多少のギャップがあって面…

吉和トラスト候補地探訪

このところの座骨神経痛に加えて、諸般の事情からフィールドワークから少しばかり遠ざかっていたが、久しぶりに吉和(廿日市市)の山林を探索する機会を得た。この山林はこれまで歩いてきた細見谷渓畔林とは全く趣を異にした明るい二次林(いわゆる里山)なのだが、…

大規模再エネ事業か、それとも美しい農村風景かー農村の未来を問う2 加美町

加美町の風力発電建設地―撮影:日本熊森協会本部 水見竜哉 宮城県北西部に位置する加美町は、奥羽山脈の東縁に位置し、農業を主産業とする町である。鳴瀬川とその支流である田川に挟まれた地域には平坦な堆積層が広がり水田地帯となっている。どこか砺波平野の散…

大規模再エネ事業か、それとも美しい農村風景かー農村の未来を問う

メガソーラー&大規模風力発電計画が目白押しの東北地方宮城県の丸森町、加美町へ現地視察とシンポジウムに招かれて行ってきた。成瀬ダム問題以後、久しぶりの東北なので、用事が済んだあとは、仙山線、奥羽線、米坂線、羽越線を乗り継いで、山寺と村上市(新潟)のサケ…

渓畔林へは入れず―芸北漫遊の一日

さる自然保護団体が10月下旬に、クマ関連の講演会(くまもりカフェin広島)を企画しており、それに続く現地観察会を細見谷渓畔林で行いたいので、協力してほしいとの依頼があった。初版の事象があってこのところ細見谷へ入っていなかったので下見に行くことにした。…

故安倍晋三元総理の国葬に県知事・県会議長の参加の中止を求める(監査請求) 意見陳述

広島県の有志が集まり、理不尽な「故安倍晋三元総理」の国葬に異議申し立てをし、その国葬に広島県知事&広島県議会議長の参加の中止を求める「住民監査請求」をおこしました。 その件に関して、9月21日(水)午後4時から口頭陳述があり、意見を述べてきました。 この制度…

Web-博物館ー細見谷渓畔林4 モリアオガエル

湿地である細見谷渓畔林はモリアオガエルの生息にうってつけの森である。6月半ばの細見谷を歩けば、そこかしこから、 カヮルル・ガヮルルとやや低くくぐもった野太いモリアオガエルの鳴き声が聞こえてくる。こう書いても実際の鳴き声を表現することは難しいので…

野生動物の法獣医学 浅川満彦 著 地人書館 

歴史と旅のルポライターで数々の難事件を解決するのは、浅見光彦。一方、獣医学の知見を武器に野生動物の死因を解明するのが、浅川満彦さん。 実在の獣医学者(寄生虫学)である。 近年,野生鳥獣が媒介する感染症(人獣共通感染症)が話題となっているが、つい数十年ほ…

Web博物館ー細見谷渓畔林3  渓畔林昔話

細見谷渓畔林は生物多様性に富む貴重な渓畔林であることに間違いは無いのですが、しかし最近の状況を見ていると大分劣化が進んでいるように見えます。一口で言えば生きものの気配が年々薄くなっているということです。生物量(バイオマス)の系統的継続的なデータ…

Web博物館ー細見谷渓畔林2 積雪期の細見谷

広島県北西部は日本海に近く、生物地理学的にも日本海型の特徴を持っていると言われている。つまり冬期の積雪の影響を受ける地域と言うことである。細見谷は旧吉和村、現在の廿日市市吉和という行政区に位置している。水系としては太田川水系の源流域にあたる。ち…

Web博物館ー細見谷渓畔林1ー生物多様性のホットスポット・

1992年4月中頃だと記憶している。ツキノワグマのレテメトリー調査をしていた米田さんから誘われて、セスナ機に乗ったことがある。1時間のフライトで一人10000円。米田さんの調査費節約のための協力フライトである。広島県西部の西中国山地上空を飛んでクマに装着…

くまがしの里とメガソーラー

正面が葛城山、右手には信貴山、遠くの山並みは吉野の山並み 小高い丘の上にたつ宿舎の窓からは、黄昏の染まる空に遠く吉野の山並み、そして近くにはなだらかにしてひときわ大きな葛城山が目に飛び込んでくる。よく目をこらすと、優美な葛城山の手前には二上山、そ…

森林生態系を破壊するメガソーラー・風力発電計画

ナキウサギふぁんくらぶ会報「ナキウサギつうしん No93 」より転載 愛媛県佐多岬半島の尾根筋に林立する風車。近くに伊方原子力発電がある。 (2019年,金井塚撮影) はじめに―再生エネルギー計画の問題点 2021 年 8 月のお盆は西日本を中心にかつて無い集中…

世界自然遺産登勧告ーその是非を問う

ついにと言うか、とうとうと言うか、政府から推薦されていた「奄美大島・徳之島・沖縄島北部および西表島」について、IUCN(国際自然保護連合)からの世界自然遺産登録を勧告するとの評価が下された。正式な決定は、この7月に開催されるユネスコ世界遺産委員会の決定ま…

絶滅危惧種ー東南アジアの霊長類 奥田達哉

昨日、予約しておいた写真集「絶滅の危機種ー東南アジアの霊長類 奥田 達哉」が届きました。異色の経歴をもつ写真家の奥田さんは2年間にわたり、東南アジアの霊長類に焦点を絞って撮影してきたという。 私も霊長類学を志して50年になるが、その頃から森林棲の霊長…

馬毛島基地(仮称)建設事業に係る 環境影響評価方法書に関する意見

九州の南端からおよそ40キロメートル南東の海上に平らな種子島という島がある。鉄砲伝来やロケット発射基地(種子島宇宙センター)などでよく知られた島であるその種子島の東10キロメートルほどのところに、馬毛島という無人島がある。今は無人島と為っているが、…

カモシカ調査の思い出-下北半島

上野発の夜行急行「十和田」、今はもうありません。上野から常磐線経由で青森まで12時間ほどの夜行急行だ。座席は硬く、背もたれは垂直の旧型客車で乗り心地はお世辞にもいいとはいえない。一日一往復、19時過ぎに上野駅を出発する。1976年の頃だったと思う。当時学生…

西中国山地における風力発電計画に対する意見書(アセス方法書)

「(仮称)広島西ウインドファーム事業環境影響評価方法書」 が縦覧されています。 意見書の受付もしていると言うことで、何の役にも立たないのを承知で簡単な意見書を提出してみます。 これって本当に何の役にも立たない「やりました。聞きました」というだけの制…

大規模風力発電の問題点

大規模風力発電の問題点 2020年10月31日(土)/ 佐伯区役所西館6階大会議室 ※ 大規模風力発電学習会 講演(広島2区市民連合) 子どもたちに未来を拓く広島2区市民連合学習会 金井塚務(環境NGO代表・広島2区市民連合呼びかけ人) ■環境正義(Envilomental Justi…

八ッ場ダムと倉渕ダム 相川俊英 緑風出版 2020年

いったい日本の国土にはどれくらいの数のダムがあるのだろうか?そんな疑問がふとわいてきた。様々な統計に当たってみたものの、ダムの国や県、電力義者などと管理団体ごとにバラバラで統一された統計上の数字はよくわからない。そこで水源連のHPを覗いてみると以…

林間放牧再考ーいわゆる獣害をなくすために

もう30年以上も前のことだが、神石町へ厩ザルの調査に行ったことがある。当時の神石町では黒毛和牛の林間放牧が盛んであった。最近、当地を訪れていないので、林間放牧の状況がどのようになっているのかは知らない。 この神石という所は資源林としての里山と放牧…

日本の堤防はなぜ決壊してしまうのか-水害から命を守る民主主義へ 西島 和 著 現代書館 1600円+税

最近とみに増加している河川の氾濫、堤防の決壊、あるいは土石流による大災害は市民の生命と財産はもちろん、将来にわたる地域の暮らしに大きな不安をもたらしている。 マスメディアは地球温暖化という遠因を指摘しつつ、ダムや砂防ダムの未整備が直接的な原因で…

与えるサルと食べるシカ 辻大和著 地人書館

久しぶりに生態学におけるフィールドワークの面白さを伝えてくれる本が出ました。実を言うと、この本が出たことを知ってはいたのですが、買おうかやめようか迷っていたのですが、著者の辻さんから、私の子供向け科学読み物「ニホンザル」を読みたいので送ってくださ…

野生生物保全論を考える-コンゴ共和国 西原智昭著

西原智昭著 増補改訂版 現代書館 2300円 2020年 昨今、生物多様性を守るということで、野生生物保全論がもてはやされている。その反面、現実には生物多様性は日々失われているのも現実である。保全論をうたう大学の講座には大きく二つの流れがある。一つは生態学的…

原始林のたまご

忘れもしない1991年9月27日深夜、猛烈な風雨で目が覚めた。台風19号による暴風雨でガレージの柱が折れ、それが寝室の窓ガラスを突き破ったのだ。私は鉄鋸をもって外に出て、アルミ製の柱を切断した。家の外壁には飛んできた瓦が突き刺さるなど、大きな被害をうけた。…