生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

エッセイ

くまがしの里とメガソーラー

正面が葛城山、右手には信貴山、遠くの山並みは吉野の山並み 小高い丘の上にたつ宿舎の窓からは、黄昏の染まる空に遠く吉野の山並み、そして近くにはなだらかにしてひときわ大きな葛城山が目に飛び込んでくる。よく目をこらすと、優美な葛城山の手前には二上山、そ…

カモシカ調査の思い出-下北半島

上野発の夜行急行「十和田」、今はもうありません。上野から常磐線経由で青森まで12時間ほどの夜行急行だ。座席は硬く、背もたれは垂直の旧型客車で乗り心地はお世辞にもいいとはいえない。一日一往復、19時過ぎに上野駅を出発する。1976年の頃だったと思う。当時学生…

林間放牧再考ーいわゆる獣害をなくすために

もう30年以上も前のことだが、神石町へ厩ザルの調査に行ったことがある。当時の神石町では黒毛和牛の林間放牧が盛んであった。最近、当地を訪れていないので、林間放牧の状況がどのようになっているのかは知らない。 この神石という所は資源林としての里山と放牧…

原始林のたまご

忘れもしない1991年9月27日深夜、猛烈な風雨で目が覚めた。台風19号による暴風雨でガレージの柱が折れ、それが寝室の窓ガラスを突き破ったのだ。私は鉄鋸をもって外に出て、アルミ製の柱を切断した。家の外壁には飛んできた瓦が突き刺さるなど、大きな被害をうけた。…

足下の山の神-倒潰したツガを偲んで

私の作業デスクの下には、長さ30cmほどの丸太が転がっている。足置きに便利なもので、特に夏は重宝している。直径10cmほどのツガの枝で堅くて重い。 2009年4月雪解け間もない細見谷渓畔林の入り口に鎮座する「山の神」の祠の脇にそびえていたのだが、枯れて倒潰して…

赤道直下で考えた-コリオリの力の嘘

先日やんばる調査の合間に、以前訪れたウガンダの思い出話に花が咲いた。赤道直下でのある見世物についてである。 赤道とは言わずと知れた緯度ゼロで北半球と南半球との境目である。2度目の訪問はちょうど春分の日を数日過ぎた頃だったので、正午ともなると太陽は…

暇つぶしの散歩―西国街道―

私の住んでいる団地は宮島の対岸の小山を造成したせいで、団地から見る景色はなかなかのものである。海辺でもあり、高台でもあるので厳島神社の朱の大鳥居も遠望できる。まさにリゾート地かつ適度な田舎で、災害も少なく本当に暮らしやすいところなのである。都会…

イノシシとシシウド

今年の雨の降り方は半端じゃない。広島県の瀬戸内沿岸部では大変な被害をもたらしたことは、連日の報道のとおりである。幸い広島県西部ではそれほどの被害はなかったものの、調査地の沢は河床が大きく洗われ、瀬では砂礫が流され、新たな淵が形成されたり、…

大野権現山周辺のベニマンサク

2018年6月2日土曜日、天気も良く久しぶりに地元の大野権現山へ出かけてみた。ほぼ25年ぶりのことだ。大野自然観察の森の駐車場に車を置いて、約2Kmほどの旧佐伯町との町境にある標高699.2mで旧大野町最高峰となる。 大野自然観察の森は1984年から環境省が主…

アサリの養殖から見えた生物多様性喪失の問題点

暑さ寒さも彼岸までとはいうものの本当にびっくりするくらいの急激な気温上昇である。サクラも例年より早く満開となったようだ。あっちでもこっちでも桜祭りとやらで人出も多く、出かけるのに躊躇してしまうのだが、それほど有名でないところにひっそりと咲…

宮島のシカとサル-シカザル人形と色楊枝

財団法人日本モンキーセンター(当時)によってにニホンザル47頭が香川県小豆島から宮島へ移されたのが1962年のことである。それからおよそ40年の間、ロープウエイの終点駅付近に設けられた餌場でニホンザルを観察することができたてきた。このニホンザルこ…

細見谷調査余録

中国地方も梅雨入りしたというが、ほとんど雨らしい雨もなく毎日が晴天、いわゆる五月晴れが続いている。本格的な梅雨になる前に自動撮影装置の点検とデータの回収をするために細見谷へとやってきた。林道に車を止めて目的の沢へと斜面を下る。緑を濃くした…

アサリ漁民となってみたーアサリ養殖は儲からないが役に立つ

「アッサリー、シンジミ」 春ともなると早朝の街中をアサリやシジミを売り歩く行商人の掛け声が響いたものです。今は昔、昭和30年代はじめの頃の話です。少し耳の遠いご隠居さんは、朝から「あっさりー死んじめぇ」 とは縁起でもねぇと言ったとか言わなかっ…

ちょっとした違和感ー推薦できない水仙の道

季節の移ろいは早いもので、ここ瀬戸内では葉桜を楽しむ季節となった。対岸の宮島の森のあちこちにサクラやザイフリボクの花のぼんぼりが見えていたのが、今日は既に花も散り、すっかり萌葱色となった樹林に溶け込んでしまっている。 すっかり春めいているの…

北ノ俣沢は雨だったー濁流でのイワナの食べ物 (120)

秋田県雄勝郡東成瀬村への3回目の調査行である。今回は川沿いの森林植生についてより具体的なデータを集めることを目的としていたので、測量の専門家のKさんも同行しての本格的調査である。 前の2回の調査は天候にも恵まれていたが、今回は梅雨真っ最中の調…

タムシバについて考える-HFMエコロジーニュース116

季節の移ろいは速い。特に春はそうだ。駆け足でやってきて、あっという間に通り過ぎてしまう。私は宮島の対岸に居をかまえているのだが、4月上旬にはすでに花は散り葉桜の趣を見せ始めている。しかし同じ廿日市市内でも北部吉和地区は標高も高いこともあって…

HFMエコロジーニュース115-細見谷へ春を探しに

例年だと、雪が解けて細見谷へ入れるようになるのが4月中旬から下旬なのだが、今年はどうやら雪解けも早いのではないかとという気がして、まだ3月だというのに杉さんと一緒に下見に出かけた。 案の定、主川をさかのぼって林道入り口付近まで来ると、斜面には…

消えゆく集落・消える食糧生産の現場

この冬はどこも雪が少なく、寒暖の差が激しい。この急激な温度変化は生き物に大きな影響を与えるに違いない。場合によっては地域個体群の絶滅にもつながる可能性もあるだろう。このことについてはまた別の機会に譲ることにするが、温暖化がもたらすこうした…

引っ越しをしました

これまで主に、野生動物を対象にした生態学的なエッセイと海外エコツアーに関する記事を掲載してきたのですが、今後はもう少し幅広い記事を発信していこうと思っています。どうぞよろしくお願いします。 写真は主なフィールドとなっている西中国山地の細見谷…