生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

社会政策

ツキノワグマ問題を考える-真の原因は?

柿の木に登るクマ 2004年 テレビでも新聞でも今年のクマによる人身被害が頻発しているとの報道が相次いでいる。特にテレビでは同じ画像を繰り返し、視聴者の恐怖心をあおることに腐心しているかのようだ。それに対して、山の実りの不作が原因との識者のコメント…

吉和トラスト候補地探訪

このところの座骨神経痛に加えて、諸般の事情からフィールドワークから少しばかり遠ざかっていたが、久しぶりに吉和(廿日市市)の山林を探索する機会を得た。この山林はこれまで歩いてきた細見谷渓畔林とは全く趣を異にした明るい二次林(いわゆる里山)なのだが、…

大規模再エネ事業か、それとも美しい農村風景かー農村の未来を問う2 加美町

加美町の風力発電建設地―撮影:日本熊森協会本部 水見竜哉 宮城県北西部に位置する加美町は、奥羽山脈の東縁に位置し、農業を主産業とする町である。鳴瀬川とその支流である田川に挟まれた地域には平坦な堆積層が広がり水田地帯となっている。どこか砺波平野の散…

大規模再エネ事業か、それとも美しい農村風景かー農村の未来を問う

メガソーラー&大規模風力発電計画が目白押しの東北地方宮城県の丸森町、加美町へ現地視察とシンポジウムに招かれて行ってきた。成瀬ダム問題以後、久しぶりの東北なので、用事が済んだあとは、仙山線、奥羽線、米坂線、羽越線を乗り継いで、山寺と村上市(新潟)のサケ…

Web博物館ー細見谷渓畔林3  渓畔林昔話

細見谷渓畔林は生物多様性に富む貴重な渓畔林であることに間違いは無いのですが、しかし最近の状況を見ていると大分劣化が進んでいるように見えます。一口で言えば生きものの気配が年々薄くなっているということです。生物量(バイオマス)の系統的継続的なデータ…

くまがしの里とメガソーラー

正面が葛城山、右手には信貴山、遠くの山並みは吉野の山並み 小高い丘の上にたつ宿舎の窓からは、黄昏の染まる空に遠く吉野の山並み、そして近くにはなだらかにしてひときわ大きな葛城山が目に飛び込んでくる。よく目をこらすと、優美な葛城山の手前には二上山、そ…

森林生態系を破壊するメガソーラー・風力発電計画

ナキウサギふぁんくらぶ会報「ナキウサギつうしん No93 」より転載 愛媛県佐多岬半島の尾根筋に林立する風車。近くに伊方原子力発電がある。 (2019年,金井塚撮影) はじめに―再生エネルギー計画の問題点 2021 年 8 月のお盆は西日本を中心にかつて無い集中…

馬毛島基地(仮称)建設事業に係る 環境影響評価方法書に関する意見

九州の南端からおよそ40キロメートル南東の海上に平らな種子島という島がある。鉄砲伝来やロケット発射基地(種子島宇宙センター)などでよく知られた島であるその種子島の東10キロメートルほどのところに、馬毛島という無人島がある。今は無人島と為っているが、…

西中国山地における風力発電計画に対する意見書(アセス方法書)

「(仮称)広島西ウインドファーム事業環境影響評価方法書」 が縦覧されています。 意見書の受付もしていると言うことで、何の役にも立たないのを承知で簡単な意見書を提出してみます。 これって本当に何の役にも立たない「やりました。聞きました」というだけの制…

大規模風力発電の問題点

大規模風力発電の問題点 2020年10月31日(土)/ 佐伯区役所西館6階大会議室 ※ 大規模風力発電学習会 講演(広島2区市民連合) 子どもたちに未来を拓く広島2区市民連合学習会 金井塚務(環境NGO代表・広島2区市民連合呼びかけ人) ■環境正義(Envilomental Justi…

八ッ場ダムと倉渕ダム 相川俊英 緑風出版 2020年

いったい日本の国土にはどれくらいの数のダムがあるのだろうか?そんな疑問がふとわいてきた。様々な統計に当たってみたものの、ダムの国や県、電力義者などと管理団体ごとにバラバラで統一された統計上の数字はよくわからない。そこで水源連のHPを覗いてみると以…

林間放牧再考ーいわゆる獣害をなくすために

もう30年以上も前のことだが、神石町へ厩ザルの調査に行ったことがある。当時の神石町では黒毛和牛の林間放牧が盛んであった。最近、当地を訪れていないので、林間放牧の状況がどのようになっているのかは知らない。 この神石という所は資源林としての里山と放牧…

日本の堤防はなぜ決壊してしまうのか-水害から命を守る民主主義へ 西島 和 著 現代書館 1600円+税

最近とみに増加している河川の氾濫、堤防の決壊、あるいは土石流による大災害は市民の生命と財産はもちろん、将来にわたる地域の暮らしに大きな不安をもたらしている。 マスメディアは地球温暖化という遠因を指摘しつつ、ダムや砂防ダムの未整備が直接的な原因で…

野生生物保全論を考える-コンゴ共和国 西原智昭著

西原智昭著 増補改訂版 現代書館 2300円 2020年 昨今、生物多様性を守るということで、野生生物保全論がもてはやされている。その反面、現実には生物多様性は日々失われているのも現実である。保全論をうたう大学の講座には大きく二つの流れがある。一つは生態学的…

クマにあったらどうする?マニュアルを信用するな!

この秋はクマの話題に事欠かない。今年は特に都市部へのクマの出没と人身事故の多発しているという。私のところへも時折新聞者やテレビ局から取材がある。多くはその原因についての見解を求める内容なのだが、必ず、「クマと出会ったらどうしたら良いのでし…

やんばるの森事情4-イタジイとノグチゲラ

やんばるの森を歩いていると、太い木の幹、地上数mの高さに直径数センチの穴が空いているのを見つけることがある。 よくよく観察してみるとこうした穴にはある特徴が認められる。まず穴はそのほとんどがイ20cmを超えるタジイの幹に穿たれていること。そし…

アサリ漁の復活はあるか

私の住んでいる廿日市市大野地区は、知る人ぞ知る「大野あさり」の産地である。宮島の対岸の干潟(前潟)は大野瀬戸に面し、永慶寺川、毛保川などの小河川が流入する砂礫干潟である。干潟の規模はさして大きくはないが、以前からアサリの産地として漁が営ま…

川に生きるー新村安雄 読んでみませんか

ニホンザルの行動学、生態学に没頭していた頃には、川の問題についてはそれほど強い関心は持っていなかった。というより持ち得なかったというべきだろう。しかしながらニホンザルの進化に伴う諸問題を考えるうちに、哺乳類としてのニホンザルを考えるという…

オシドリが繁殖していた。母親と7羽の雛

やっぱり、オシドリがいた 。 細見谷でオシドリが繁殖している可能性が高い。HFMエコロジー・ニュース54(211)で書いたのが2007年5月30日のことだ。 とはいえ、このときも繁殖の事実を確認するには至らなかった。 かつて、吉和ではオシドリの繁殖が確認されて…

アサリの養殖から見えた生物多様性喪失の問題点

暑さ寒さも彼岸までとはいうものの本当にびっくりするくらいの急激な気温上昇である。サクラも例年より早く満開となったようだ。あっちでもこっちでも桜祭りとやらで人出も多く、出かけるのに躊躇してしまうのだが、それほど有名でないところにひっそりと咲…

細見谷地域にシカ現る

2017年9月15日 ここ広島県西部地域も風18号が接近しつつあり、細見谷渓畔林域に設置してあるクマの生態調査用自動撮影装置を避難させるため現地へ趣いた。前回メンテナンスをしたのが、8月12日だったからほぼ一月ぶりとなる。比較的好天に恵まれていたが、さ…

生物多様性に配慮した人工林の間伐施業を目指してー細見谷渓畔林

先日、細見谷渓畔林域の人工林の間伐をどのように進めるかという点について、広島森林管理署から意見を聞きたいとの申し出が有り、広島森林管理署署長以下、総括森林整備官、主任森林整備官の来訪を受けました。 細見谷を縦貫する計画だった大規模林道(緑資…

アサリ漁民となってみたーアサリ養殖は儲からないが役に立つ

「アッサリー、シンジミ」 春ともなると早朝の街中をアサリやシジミを売り歩く行商人の掛け声が響いたものです。今は昔、昭和30年代はじめの頃の話です。少し耳の遠いご隠居さんは、朝から「あっさりー死んじめぇ」 とは縁起でもねぇと言ったとか言わなかっ…

ちょっとした違和感ー推薦できない水仙の道

季節の移ろいは早いもので、ここ瀬戸内では葉桜を楽しむ季節となった。対岸の宮島の森のあちこちにサクラやザイフリボクの花のぼんぼりが見えていたのが、今日は既に花も散り、すっかり萌葱色となった樹林に溶け込んでしまっている。 すっかり春めいているの…

HFMエコロジーニュース117ー秋田・成瀬ダム予定地を歩く

成瀬ダム予定地を歩く 秋田県南東部、岩手県・宮城県との県境近くに東成瀬村はある。成瀬ダムは利水、治水を目的とした多目的ダムであるが、多目的は往々にして無目的であることはよく知られた事実である。当然地元では貴重な自然を破壊する事業として反対運…

やんばる地域の国立公園化計画の問題点

沖縄本島北部のやんばる地域を世界自然遺産登録を目指す政府は、同地域の国立公園化を計画している。しかしこの計画ではやんばるの自然を保護するためのものではなく、かえって多くの生物の生息地の分断をもたらし、孤立した個体群の衰退を招く危険性がある…

消えゆく集落・消える食糧生産の現場

この冬はどこも雪が少なく、寒暖の差が激しい。この急激な温度変化は生き物に大きな影響を与えるに違いない。場合によっては地域個体群の絶滅にもつながる可能性もあるだろう。このことについてはまた別の機会に譲ることにするが、温暖化がもたらすこうした…

実質勝訴判決・やんばる訴訟

2015年3月18日午後2時、沖縄県那覇地裁101号法廷は緊張した面持ちの傍聴人であふれていた。裁判官が入廷し、2分間の冒頭撮影が済むと、おもむろに判決主文の申し渡しがあった。1.本件訴えのうち、被告が別紙林道目録記載1ないし30の各林道の開設…

HFMエコロジーニュース111(268)

2014-05-28 11:19:47 | ニュース 鳥獣保護法改定-個体数管理では解決しない野生生物の保全 2014年5月23日に鳥獣保護法が一部改正された。今後は「改正法案では、集中的に頭数を管理する必要があるシカやイノシシなどの鳥獣を環境相が指定、都道府県や国が捕…