生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

自然保護

森林生態系を破壊するメガソーラー・風力発電計画

ナキウサギふぁんくらぶ会報「ナキウサギつうしん No93 」より転載 愛媛県佐多岬半島の尾根筋に林立する風車。近くに伊方原子力発電がある。 (2019年,金井塚撮影) はじめに―再生エネルギー計画の問題点 2021 年 8 月のお盆は西日本を中心にかつて無い集中…

絶滅危惧種ー東南アジアの霊長類 奥田達哉

昨日、予約しておいた写真集「絶滅の危機種ー東南アジアの霊長類 奥田 達哉」が届きました。異色の経歴をもつ写真家の奥田さんは2年間にわたり、東南アジアの霊長類に焦点を絞って撮影してきたという。 私も霊長類学を志して50年になるが、その頃から森林棲の霊長…

馬毛島基地(仮称)建設事業に係る 環境影響評価方法書に関する意見

九州の南端からおよそ40キロメートル南東の海上に平らな種子島という島がある。鉄砲伝来やロケット発射基地(種子島宇宙センター)などでよく知られた島であるその種子島の東10キロメートルほどのところに、馬毛島という無人島がある。今は無人島と為っているが、…

カモシカ調査の思い出-下北半島

上野発の夜行急行「十和田」、今はもうありません。上野から常磐線経由で青森まで12時間ほどの夜行急行だ。座席は硬く、背もたれは垂直の旧型客車で乗り心地はお世辞にもいいとはいえない。一日一往復、19時過ぎに上野駅を出発する。1976年の頃だったと思う。当時学生…

西中国山地における風力発電計画に対する意見書(アセス方法書)

「(仮称)広島西ウインドファーム事業環境影響評価方法書」 が縦覧されています。 意見書の受付もしていると言うことで、何の役にも立たないのを承知で簡単な意見書を提出してみます。 これって本当に何の役にも立たない「やりました。聞きました」というだけの制…

野生生物保全論を考える-コンゴ共和国 西原智昭著

西原智昭著 増補改訂版 現代書館 2300円 2020年 昨今、生物多様性を守るということで、野生生物保全論がもてはやされている。その反面、現実には生物多様性は日々失われているのも現実である。保全論をうたう大学の講座には大きく二つの流れがある。一つは生態学的…

クマにあったらどうする?マニュアルを信用するな!

この秋はクマの話題に事欠かない。今年は特に都市部へのクマの出没と人身事故の多発しているという。私のところへも時折新聞者やテレビ局から取材がある。多くはその原因についての見解を求める内容なのだが、必ず、「クマと出会ったらどうしたら良いのでし…

やんばるの森事情・番外編

ときおり大粒の雨が激しくたたきつける中、やんばるでの伐採地の視察を行った。今年(2,019年度)の国頭村村有林の伐採予定地は3カ所。宇嘉2.00ha, 宜名真2.00ha,と辺土の3.00haである。このうち前2地区、宇嘉と宜名真の森林は林道沿いの一部はリュウキュウ…

やんばるの森事情6-乾燥化がもたらすもの

数年前のことだが、アメリカ中西部へ野生動物を求めて出かけていったことがある。そこは半砂漠のような乾燥地であるから、湿度の高い日本に暮らしている者にとってはかなりのストレスとなる。放っておくと膚は乾燥して指先にはささくれができたり、唇はひび…

やんばるの森事情5-枯れ木の効能

前回は森林の皆伐がノグチゲラの生活の脅威となっていることを指摘しておいたが、今回は枯れ木の効用について考えてみよう。 長い間伐採を逃れてきたやんばるの森を覗いてみると、写真の様な太い枯れ木が林内に点在していることに気づく。これらはおそらく、…

やんばるの森事情4-イタジイとノグチゲラ

やんばるの森を歩いていると、太い木の幹、地上数mの高さに直径数センチの穴が空いているのを見つけることがある。 よくよく観察してみるとこうした穴にはある特徴が認められる。まず穴はそのほとんどがイ20cmを超えるタジイの幹に穿たれていること。そし…

やんばるの森事情 1 やんばるの森散策

前回は森林伐採の現場を紹介したが、こうした森林伐採がやんばるの生物多様性にいかなる影響を与えるかということを考えてみたい。だがその前に、そもそもやんばるは本来の森林って?、そこはどんな世界なのか、どのような生きものが暮らしているのか、とい…

2019年やんばる紀行-森林破壊の現場を歩く

暖冬とはいえまだ肌寒さが残る広島の我が家を出て、岩国空港へ。ここから約2時間ほどのフライトで沖縄県那覇空港に着く。3月2日土曜日、那覇は薄曇り。機外へでるとねっとりした暖気が身体を包み込む。やはり那覇はもう夏だ。Tシャツだけでも十分暑い。空港…

川に生きるー新村安雄 読んでみませんか

ニホンザルの行動学、生態学に没頭していた頃には、川の問題についてはそれほど強い関心は持っていなかった。というより持ち得なかったというべきだろう。しかしながらニホンザルの進化に伴う諸問題を考えるうちに、哺乳類としてのニホンザルを考えるという…

オシドリが繁殖していた。母親と7羽の雛

やっぱり、オシドリがいた 。 細見谷でオシドリが繁殖している可能性が高い。HFMエコロジー・ニュース54(211)で書いたのが2007年5月30日のことだ。 とはいえ、このときも繁殖の事実を確認するには至らなかった。 かつて、吉和ではオシドリの繁殖が確認されて…

圧倒的な観察力が魅力

いま、沖縄本島北部のやんばるは世界自然遺産登録のためのIUCNの現地調査が行われようとしている。世界遺産に登録されようがされまいが、ここの特異性や希少性は世界に冠たるものとして後世に残していかねばならない。そうしたかけがえのないやんばるの生物…

エゾナキウサギ

ーアマチュアリズムの結晶ー エゾナキウサギはとても魅力的な生きものである。私はニホンザルの研究者として本州以南をフィールドとしていたが、このエゾナキウサギは名前が示すとおり、その生息地は北海道にある。したがって、ニホンザルのフィールドワーク…

細見谷地域にシカ現る

2017年9月15日 ここ広島県西部地域も風18号が接近しつつあり、細見谷渓畔林域に設置してあるクマの生態調査用自動撮影装置を避難させるため現地へ趣いた。前回メンテナンスをしたのが、8月12日だったからほぼ一月ぶりとなる。比較的好天に恵まれていたが、さ…

生物多様性に配慮した人工林の間伐施業を目指してー細見谷渓畔林

先日、細見谷渓畔林域の人工林の間伐をどのように進めるかという点について、広島森林管理署から意見を聞きたいとの申し出が有り、広島森林管理署署長以下、総括森林整備官、主任森林整備官の来訪を受けました。 細見谷を縦貫する計画だった大規模林道(緑資…

ちょっとした違和感ー推薦できない水仙の道

季節の移ろいは早いもので、ここ瀬戸内では葉桜を楽しむ季節となった。対岸の宮島の森のあちこちにサクラやザイフリボクの花のぼんぼりが見えていたのが、今日は既に花も散り、すっかり萌葱色となった樹林に溶け込んでしまっている。 すっかり春めいているの…

北ノ俣沢を歩くーその4 斜面崩落の意味

ブナ-ミズナラの夫婦樹から湛水域の終点まではもう2Kmほど北ノ俣沢を遡上しなければならない。その前にもう一カ所、風穴の温度測定をしなければならない。その風穴はかなり遅くまで積雪が溶けずに残るところにできた累石型の風穴で、対岸(左岸)の大規模な…

北ノ俣沢を歩く-その3 ブナとミズナラの夫婦樹

ブナとミズナラの夫婦樹 ともかく昼飯をすまして、さらに上流を目指す。河原へ出てすぐのところで見つけた風穴へ温度測定にむかう。風穴は左岸と右岸にそれぞれ1カ所ずつあるが、まずは右岸の風穴へむかう。ちょっと見にはなんの変哲もない川沿いの森なのだ…

二つ目のクマゲラの巣穴(HFM-122)

4度目の北ノ俣沢-その2 二つ目のクマゲラの巣穴 崩落地と園周辺の風穴での温度測定を終え、さらに上流を目指す。左岸の高茎草原で鮮やかなムラサキ色の花の群落を見つけた。花はトリカブトに間違いない。だが葉は見慣れたトリカブトよりも幅広で厚い。どう…

成瀬ダム予定地の自然ー北ノ俣沢を歩いて(HFM121)

4度目の北ノ俣沢- その1 2016年、つまり今年のことだが、なかなか台風が発生しないと思っていたら、8月に入って突然、台風多発状態になった。しかも日本近海で発生し、関東、東北、北海道といった台風常襲地帯とはことなる場所で大きな被害をもたらした。一…

北ノ俣沢は雨だったー濁流でのイワナの食べ物 (120)

秋田県雄勝郡東成瀬村への3回目の調査行である。今回は川沿いの森林植生についてより具体的なデータを集めることを目的としていたので、測量の専門家のKさんも同行しての本格的調査である。 前の2回の調査は天候にも恵まれていたが、今回は梅雨真っ最中の調…

クマゲラの巣を見つけた!! (119)

クマゲラって鳥、知ってますか?真っ黒な身体に赤いベレー帽といった出で立ちのキツツキである。 本州には、アカゲラ、オオアカゲラ、アオゲラ、コゲラ、アリスイといったキツツキの仲間が暮らしており、時折見かけることがある。とくにスズメほどの大きさの…

成瀬ダム予定地-北ノ俣沢を歩く (118)

前回、ダム予定地を下見した様子を報告したが、そのときは雪解け水で増水した沢を歩く事ができなかったので、(地図の赤いピンマークを通るように)中腹を迂回するように歩いたのである。今回は鳥の調査(担当花輪さん)に同行して北ノ俣沢と木賊(とくさ)…

やんばる地域の国立公園化計画の問題点

沖縄本島北部のやんばる地域を世界自然遺産登録を目指す政府は、同地域の国立公園化を計画している。しかしこの計画ではやんばるの自然を保護するためのものではなく、かえって多くの生物の生息地の分断をもたらし、孤立した個体群の衰退を招く危険性がある…

実質勝訴判決・やんばる訴訟

2015年3月18日午後2時、沖縄県那覇地裁101号法廷は緊張した面持ちの傍聴人であふれていた。裁判官が入廷し、2分間の冒頭撮影が済むと、おもむろに判決主文の申し渡しがあった。1.本件訴えのうち、被告が別紙林道目録記載1ないし30の各林道の開設…

HFMエコロジーニュース111(268)

2014-05-28 11:19:47 | ニュース 鳥獣保護法改定-個体数管理では解決しない野生生物の保全 2014年5月23日に鳥獣保護法が一部改正された。今後は「改正法案では、集中的に頭数を管理する必要があるシカやイノシシなどの鳥獣を環境相が指定、都道府県や国が捕…