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生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

成瀬ダム予定地-北ノ俣沢を歩く (118)

 前回、ダム予定地を下見した様子を報告したが、そのときは雪解け水で増水した沢を歩く事ができなかったので、(地図の赤いピンマークを通るように)中腹を迂回するように歩いたのである。今回は鳥の調査(担当花輪さん)に同行して北ノ俣沢と木賊(とくさ)沢、そして北ノ俣沢と合ノ俣 沢に挟まれた尾根筋を歩いてきた。

 初夏の森を水につかりながらの楽しくも厳しい調査で、それぞれに面白い発見があったのだが、今回はそのうちの北ノ俣沢の状況について報告しようとと思う。 

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  地図の赤線で囲った範囲(夢仙人大橋より上流部のみ図示)が湛水域である。およそ標高530m弱までが水没する地域となる。下の写真は水没予定の北ノ俣沢から夢仙人大橋を見上げたところである。満水時にはこの橋のすぐ下まで水がたまる事になっている。

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 北ノ俣沢の特徴は谷底の幅が広く、流れが比較的なだらかであるが、その一方で両岸の斜面は崩落しやすく、至る所にガレ場ができているという点にある。多雪地帯にあるためもろい斜面は積雪によって崩壊することもあって、そこにはフキなどの草本類が繁茂する。これが春先のクマやカモシカなどの大型ほ乳類の採食地として大きな価値をもっているようだ。川沿いのテラス状になった場所に設置したVTRカメラにはこれらのケモノたちの姿が写っていた。特に冬眠しないカモシカにとっては、ガレ場や沢筋の法面にできる草地は、早春の採食地として重要な意味を持っているに違いない。

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 そして広い河原の石の上には、テンのフンがそこかしこに残されていて河原が春先の重要な生活場所となっていることがうかがい知れる。

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 同じく河原には大きな石のくぼみにできた水たまり(止水)があり、そこはヒキガエルトウホクサンショウウオなどの産卵場となっている。これらはいずれもダムが完成するや深い水底に消えてしまうことになる。急峻で崩落しやすい斜面にはさまれた北ノ俣沢にあって、河原に点在する止水はあこれら両生類にとって極めて重要な産卵(再生産)の場となっていることを考えれば、個体群の消滅は避けられないであろう。

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 それは両生類に限ったことではない。ダイモンジソウなどの植物群落にも大きなダメージを与えることになる。

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 沢を取り巻く森林からは、エゾハルゼミの声が野鳥の囀りをかき消す勢いで響いてくる。もう初夏の気温なのだ。雪解けも早くこの時期にしては水量が少ないという北ノ俣沢をさらに遡上する。今日(5月28日)は設置したカメラの点検をしなければならない。そこまではもう少しだ。

 北ノ俣沢にも少ないが川沿いにテラス状の湿地があって、渓畔林ができている。そこにカメラを設置して大型ほ乳類の動向を観察しようと思っている。どのような成果を上げられるか、いささか心配ではあるが、やるだけのことはやっておかねばなるまい。

            ☆  ☆  ☆  ☆

 今日の夜は、木賊沢(とくさざわ)で野営する予定である。野鳥の調査には早朝からの行動が欠かせないので、みな老骨にむち打って頑張っている。ということもあって食糧調達を任されたSさんがイワナを釣るという。我々に同行してくれたので、釣り上げたイワナの胃袋をちょいと調べさせてもらった。下の写真。

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 20cmを超えるイワナの胃袋から出てきたのは、ムネアカオオアリ、エゾハルゼミをはじめハチの仲間や甲虫の仲間ばかりで水生昆虫類はほとんど見つからなかった。イワナなどの渓流魚は水生昆虫を主な食糧としていると思いがちだが、実際はそうではない。ほとんどは陸生生物がイワナを支えているのだ。つまり流れに沿って樹林が連続していることは渓流魚にとっても大きな意味があるということになる。陸生生物と水生生物との相互作用が渓畔林や河畔林生態系にとって重要な要素なのである。 

 何とかカメラのメンテを終えて、もう少し先へ進む。

 大きな崩落地に出た。ここは岩手地震か東北大震災の折りに崩落した可能性があると言うことだ。斜面にはまだ雪渓が残っている。中央の巨樹は、サワグルミでかなり古い。この近くでアセスリストには記載がないセッコクと思われる植物を見つけたが、この崖地にはアセスでは見つからなかった希少植物があるような気がしている。

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 次回はクマゲラに関する情報をお届けする予定です。