生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

圧倒的な観察力が魅力

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 いま、沖縄本島北部のやんばるは世界自然遺産登録のためのIUCNの現地調査が行われようとしている。世界遺産に登録されようがされまいが、ここの特異性や希少性は世界に冠たるものとして後世に残していかねばならない。そうしたかけがえのないやんばるの生物たちは日々絶滅の危機に直面していることはご存じだろうか。

 やんばるの自然は味米軍の訓練場として手つかずのまま保存されてきたかのようにいわれているが、実態はそうではない。そして今、東村高江地区には森を切り裂いて大きなヘリパッドが建設され、オスプレイや大型ヘリが上空を飛び交っている。こうした軍用機の出す轟音や墜落事故はこの地域の生物にとってその生活の場を破壊する要因に他ならない。まさに自然遺産に対する冒涜である。

 そんな日常に真っ向から立ち向かい、高江の森の生きものたちを見続け、現状を伝えようと孤軍奮闘しているのがアキノ隊員こと宮城秋乃さんである。彼女も先日紹介した「ナキウサギふぁんくらぶ」の面々と同様、すぐれたアマチュア研究者の1人である。自然を見つめそこから得られた事実に基づき、自然の有り様を理解しようとする態度は見ていて気持ちいい。専門はチョウやガなどの鱗翅目だそうだが、昆虫類、は虫類、両生類、鳥類などあらゆる生きものに関心が向いているようだ。

 昆虫類の多くはほとんど人目にも触れずひっそりと暮らしているのだが、こうしたいわば

無名の生きものに彼女の目が向くとたちまち魅力ある生きものとして我々の目にとまることになる。まさに森の生きものの代理人といった人である。

 そんな彼女が「ぼくたちここにいるよー高江の森の小さないのち」を出版した。タイトルどおり、小さな生きものたちの暮らしが写真で紹介されているが、この写真のすべてが暮らしという視点を持っている。つまりよくありがちな標本写真ではなく、暮らしの一断面が生活の場とともに紹介されている、そのことにこの本の価値がある。そしてその暮らしを守ることは暮らしの場である森林そのものを守ることであることを伝えている。こうした豊かなやんばるの森が今、米軍のヘリパッド建設やその後の訓練施設として運用されることで大きなダメージを受けることを訴えているのだが、その視点もやはり生きものからのものである。自然の魅力を伝える活動にも積極的に取り組んでおり、まさにフィールドミュージアム鑑としての力強いアキノ隊員の面目を遺憾なく発揮している一冊である。乞うご購読。

 影書房刊 1900円+税