生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

オシドリが繁殖していた。母親と7羽の雛

やっぱり、オシドリがいた 。
細見谷でオシドリが繁殖している可能性が高い。
HFMエコロジー・ニュース54(211)で書いたのが2007年5月30日のことだ。

とはいえ、このときも繁殖の事実を確認するには至らなかった。
 かつて、吉和ではオシドリの繁殖が確認されていたし、細見谷を含む県内各地で越冬するオシドリが観察されてきたが、こと繁殖ということになると、吉和ではここ20年以上もその記録はない。

ちなみに広島県レッドリスト最新版では、「要注意」の定義は、要注意種(AN)評価するだけの情報が不足している種,または,広島県の自然特性等から保護上の重要度の高い種現時点では絶滅危険度の評価は困難であるが,上記のランクに移行する要素を有するもの、だそうだが、何のことやら意味不明だが、要するに実態が不明ということ。野生生物のフィールド調査をしていないのだから情報不足はべつにオシドリに限ったことではないのですが。とにかくよくわからないが希少であるということです。

http://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/139053.pdf

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オシドリのペア 2008年

 その後、細見谷川流域でクマの調査を続けているが、その調査の過程で思わぬ発見がある。特に野鳥に関する貴重なデータが集まる傾向がある。クマタカハイタカオオコノハズク、アオシギなど思いがけぬ姿をとらえることができている。またミゾゴイの繁殖も初めて確認することができた。そして今年はオシドリの繁殖が見事に確認できた。写真は動画を切り取ったので背景に溶け込んで見にくいが、母親の後を着いて歩く7羽の雛が写っている。雛は歩くというより流れに身を任せて必死に親の後をついて行くといったほうが正確かも知れない。とにかくその必死さがかわいいのです。

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 きっとこの上流にある樹洞が営巣地なのでしょう。それを確かめる仕事ができた。うれしいやら大変やら、老体の身が持ちそうにない。

 西中国山地国定公園の一角を占める細見谷渓畔林流域はクマだけではなく野鳥にとっても最後の避難地となっているのではないだろうか。その意味ではこの流域一帯を国定公園の特別保護区に指定し、多様性の保全を計る必要がある。

 こういうと自然保護では「飯は食えない」という反論が聞こえてくるが、それは何も野生動植物のためだけの政策ではない。むしろ私たちの生存に直結した問題なのだ。
 なぜならこうした多くの貴重なストックと生産力の維持こそが経済の持続性を保証し、我々の生存にとって欠かせないものであるからなのだ。