生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

やんばるの森事情・番外編

f:id:syara9sai:20190918152515j:plain ときおり大粒の雨が激しくたたきつける中、やんばるでの伐採地の視察を行った。今年(2,019年度)の国頭村村有林の伐採予定地は3カ所。宇嘉2.00ha, 宜名真2.00ha,と辺土の3.00haである。このうち前2地区、宇嘉と宜名真の森林は林道沿いの一部はリュウキュウマツの混交する二次林であるが、内部をつぶさに観察してみると沢筋の急斜面にはかなり古いイタジイが生育している。この2カ所は林道沿いでもあり、比較的目につきやすいせいなのだろうか、伐採はまだ始まっていない。

 今年の10月には、やんばる地域を含む南西諸島の世界自然遺産登録の可否の鍵を握るIUCN(世界自然保護連盟)の現地視察が予定されていることもあってのことなのかもししれないと思いつつ、最北の辺土の予定地へとむかった。そして目にしたのが前掲の写真の光景である。

 この辺土の伐採地は本島最北に位置しており、観光客はもちろん自然観察にもほとんど利用されていない地域である。ここはやんばる型林業林業生産区域」であり、国立公園の特別地域(第3種)に指定されている。つまり届け出さえすれば森林の伐採はほぼ自由な区域なのだ。国立公園は規制の厳しい特別保護地区と特別地区域(1~3種)および普通地域に区分されている。一見、国立公園の特別地域といわれれば、かなり厳しく開発や森林伐採が規制されているとの印象を受けるかも知れないが、実際はそうではない。厳しい規制が敷かれているのは「特別保護地区」だけであり、それに準じる「特別地域」はほぼ何でも出来る地域なのだ。

 もともと特別地域には1種、2種、3種などの区分は法律で決められているものではなく、政令で定められているにすぎない。つまり一種の通達行政の産物なのかも知れない。第2種、3種ともなると、特別でも何でもないほど規制は緩く、普通地域との違いは届け出がいるかどうかしかない。

 やんばる国立公園は2016年9月15日に指定を受けているが、それに先だって、沖縄県は2014年3月にやんばる型林業ゾーニング案を発表している。

 このやんばる型林業は、それまでのやんばる地域での皆伐などの批判を受けて有識者による審議を経て決定したもので、やんばる地域を、1.自然環境保全区域 2.水土保全区域 3.林業生産区域の三つにわけている。こうしてみると伐採が出来るのは3の林業生産区域だけのように見えるが、実際には1の自然環境保全区域でさえ伐採可能な仕組みとなっている。

 そしてこのやんばる型林業ゾーニングと国立公園の保護地域の区分とは奇妙に一致しており、明らかに公園化に際してこのやんばる型林業ゾーニングに配慮したことがうかがえる。

 辺土の伐採地はやんばる型林業林業生産区域(ここはさらに、自然環境重視型と自然環境配慮型とに細分されている)に位置し、国立公園の第3種特別地域である。

 百歩譲って、林業のための伐採を認めるにしても、生物多様性を著しく毀損するような施業はどう見ても脱法的なものといわざるを得ない。

 実際にどのような施業が行われているのかを見てみよう。

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 辺土の伐採対象となった森林はイタジイが優占するやんばるに典型的な森である。イタジイは樹齢50年以上で胸高直径が30cmを少し超える太さのものが多い。

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 切り倒された樹木は枝を切り落として4mほどに玉切りにされ、谷を跨ぐように集められ積まれる。この現場は林道が谷の源頭部ふきんを通っており、索道を使って尾根や谷を越す必要がない。ということで谷の源頭部から重機が沢に沿って下り、集材しているようだ。谷にははっきりとキャタピラの轍がのこり、谷は押し広げられている(次の写真)。

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 この現場はこれまで見たこともないような極めて乱暴な伐採施業である。これほど酷い現場ななかなかない。少なくとも本土の国有林ではこうした施業は許されていない。
 ここに1,999年1月に出された、「国有林野の各機能類型に応じた管理経営の指針について」という文書がある(最終改正 平成31年3月28日 30林国経第127号)。A4 8ページに渡る通達だが、五つの機能類型についてそれぞれの施業指針が示されている。

 五つのきのう類型とは1.山地災害防止タイプ 2.自然維持タイプ 3.森林空間利用タイプ 4.快適環境形成タイプ 5.水源涵養タイプ であり、ここ辺土の現場ではどの機能類型に属するのか定かではないが、少なくとも世界自然遺産としての価値を有するやんばる地域にあって生物多様性保全の義務を負っていることからして、林野庁のこの通達に準拠した丁寧な取り扱いが求められているはずである。
 このうち5の水源涵養タイプにあっては、「森林の裸地化と極力回避するため択伐を推進すること」とし、「尾根、斜面中腹、渓流沿いなど」に「おおむね50mの規模で保護樹帯を必要な箇所に設ける」ことや「特に渓流沿いついては、(略)生物多様性保全機能に配慮し、渓流への土砂の流出や伐採等に伴う過度の攪乱を抑えるため、積極的に保護樹帯をもうけるようにすること」としている。

 こうした渓流への配慮は生物多様性保全の面から極めて重要で、なにも水源涵養タイプの森林に限ったことではなく、かなり古くから本土の伐採現場で実施されてきたことでもある。

 どんな理屈をこねようとも、辺土の現場の惨状は決して看過できるものではない。もし国頭村沖縄県が自信を持って問題ない施業であると言うのであれば、来たるべきIUCNの視察団を現場に招いてみてはいかがだろう。

 国立公園への指定が保全措置を担保するという神話もしくは妄想はすべきではない。現実をしかと見つめ、多様性の保全のために何が必要か。どうすればその価値を村民や県民、国民と共有できるのかを考えることが行政に求められているのではないだろうか。現状を放置して何が世界自然遺産登録なのだ。登録の如何に関わらず、自然遺産の価値を認めた時点で、保全の義務を負うということを国や県、村などはもっと認識する必要がある。

 来月10月26日には、こうしたやんばるの抱える問題についてシンポジウムが企画されています。会場は那覇市国場の沖縄大学で午後2時から5時の予定だそうです。私も話題提供者として参加の予定です。翌日にはこの現場へのエクスカーションも予定しています。心の準備をしておいてください。

 多くの市民の声が行政を動かします。どうぞ声をあげてください。

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