生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

HFMエコロジーニュース105(262)

<いざ、サファリツアーへ>
 さて、無事買い物を終えホテル(Shngri-La Hotel)に宿泊した一行はよく3月24日午前9時カンパラを発って、最初の目的地キバレ(Kibale)へとむかった。このサファリツアーは8泊9日間の日程で、ウガンダのサバンナ、湿地、森林で野生動物をじっくり観察するツアーである。カンパラで3泊し、行き帰りの飛行機の中で2泊するので、日本からは13泊14日の長丁場となる。
 日程はおおむね以下の通りである。
1日目 カンパラからキバレへ。宿泊地はCVK(Creater Valley Kibale)
                  http://www.traveluganda.co.ug/cvk/index.html
2日目 午前 チンパンジーの観察   午後 湿地の観察
3日目 キバレを発ちフォートポータルを経由してMweya Safari Lodge(クイーンエリザベス国立公園)へ。イブニングサファリ。
4日目 午前 モーニングサファリ 午後 カジンガチャネル ボートサファリ
5日目 ムエヤを発ち、途中、木登りライオンの観察をしながらブホマ(Buhoma)へ。
6日目 ヴィレッジウォーク@Buhoma 
7日目 ゴリラトレッキング
8日目 ブホマをたってミヒンゴ国立公園(Mihingo)へ
9日目 朝、ホースライディングサファリを楽しんで、カンパラへ戻る
 このように書いてしまえば、ごくごく普通のサファリツアーであるが、さて、どんなツアーになったのか、道中見聞録の始まり始まり。
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 カンパラからキバレへは西へ260km、5-6時間のドライブ。
午前9時少し前、2台のワゴン車がホテルへ到着した。約束をきっちり守っているのに感心する。ともすればアフリカ時間で約束した時間から大きく遅れることも覚悟しなくてはならない場合も多いが、契約したARCは、その辺はきちんとしている。ドライバーは前回下見したときのデウス君である。今回はこれに加えて、荷物専用車も準備しなければならなかった。大型のサファリカー持たない会社なのでそれもやむを得ない。車2台を連ねてのサファリツアーである。高台にあるカンパラのコロロ地区をでて湿地の広がる郊外へ出てると、市街地とは異なる風景が開ける。首都カンパラの中心部は官庁やビジネスの街として庶民の生活のにおいが少ない、ややすました一面を持っているが、こうした高級住宅街を抜けて郊外へ出てくると、一転してバイタリティにあふれた庶民の街となる。街道(国道)にそって、露天か簡単な小屋がけ風の商店が軒を連ねるマーケットに多くの庶民が群がっている。そこではあらゆる物が売られている。靴、鞄(かばん)、ドレス、携帯電話、鶏、バナナ(マトケ=蒸して食べる、芋やカボチャのような味)、豆類、ジャックフルーツやマンゴーなどのフルーツ、炭、肉や野菜などの食料品など何でもそろっている。旅の醍醐味はこうした現地のマーケット(市場)へ出かけてみることにあるのだが、とはいえぽっと出の旅行者がこうした市場へ足を踏み入れるにはかなりの覚悟がいるというか、無事に出てこられるかどうかわからない。現地のヒトと一緒でなければまず無理のようだ。
1 このマーケットの話はまた別の機会に譲ることにして先を急ぐ。
西へ西へと車はひたすら走る。下町の喧噪を離れて更に西へ進むと、パピルスが繁茂する湿地の中を国道が貫いて走っている。パピルスは言わずと知れた紙(ペーパーの)語源となったカヤツリグサ科の植物である。遠目には1mほどの草のように見えたが、実際には3mほどの高さになる。パピルスの茎を薄くそいで乾燥させ、板状になったパピルスを編んで衝立やカーペットに加工するのだが、ここでは天日での乾燥させている過程を見ることができる。
 ウガンダは地球の裂け目として知られた東西の大地溝帯に挟まれた、巨大な盆地状の地域にあって、湖沼が点在する水の豊かな国である。
papirus11_2西地溝帯の西側はコンゴ共和国との国境をなすルエンゾリ山系がそびえており西へ行くにつれ乾燥して赤茶けた大地へと変化してくる。沼地に群生するパピルスは姿を消し、森林(疎林)を焼き払った畑に料理用バナナの畑(プランテーション)が点在するようになる。民家の周辺には日干し煉瓦を積んだ四角い塔のようなものが散見できる。この煉瓦は建築現場でも、赤土を掘って練り、天日で乾燥した後に火入れして作るこもののようだ。新築家屋の軒先で煉瓦造りをしているらしい光景も見受けられる。街道沿いの家々はどれも小さく、簡単な作りのものだが、入り口のドアは鉄製の頑丈な作りになっている。この玄関ドアは規格品であるらしく、ドアだけを道ばたに並べて売っている店をよく見かけた。ウガンダでは商品はみんな道ばたに並べて売っているのが当たり前で、大きなベッドなどの家具もそうして売られている。雨が降ったりほこりをかぶったりすることは気にならないのだろうか。何でもかんでもピカピカにして、傷一つない品質を求める日本人の感覚では理解できない光景である。しかし、そんなきれい好きというか、完璧主義的消費者は世界中探してもそういないのではないかとも思う。あまり完璧を求めることは高コスト社会となり、無駄が多くて合理的でもなさそうだ。これから向かうであろう貧乏時代に向けて、少し傷だらけの人生を楽しんでも良いのではないかと、暑いアフリカで考えた。
 さて、先を急ごう。
 カンパラを出発して2時間半、車はほとんど人家のない道を走り続けている。時折、小さな集落があり、人々が集まっている。そして何もない道ばたにプラスチック製タンクを持った子供たちの集団を見つけた。どうやら水くみに来ているようだ。集落の外れに共同の井戸をもつ集落もあるが、そうした井戸さえない集落も珍しくはない。数キロの道のりを徒歩や自転車で水をくみに来るのは子供たちの仕事らしい。ちょうどトイレ休憩(ブッシュトイレット)もしたくなった頃でもあり、球形がてら子供たちの集まる水場を見学させてもらうことにした。
 水が湧き出ているということで、すんだ水を汲んでいるのだとばかり思っていたが、この道路脇の窪地に水がわき出て貯まっている水は緑茶色に濁っていた。湧き出した水ではあるが決して澄み切ってはいない。これでも貴重な飲料水なのだ。日本国内であれば、どこへ行ってもすんだ水を求めるのにそれほど苦労することはない。したがって水は空気のようにごく当たり前に手に入るものと思いがちである。特に水道の蛇口をひねれば、水もお湯も流れ出るという文明は実にありがたいものだが、そのありがたさはなかなか実感できないくらい当たり前になっている。しかし世界の多くの地域はそうではない。水は生きるために必須のものだが、それを入手するために、どれだけの努力をしてきているか知ることさえ困難な時代である。21世紀はこの淡水資源を巡る紛争が更に激化するであろうことは、多くの人たちの共通認識となりつつあるのに、ふだんその実感さえ持てない状況に身を置いていることは、極めて危険でもあるし不幸なことであろう。
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 この水場周辺は乾燥して荒涼とした草地になっているが、彩りに乏しい褐色の荒れ地にピンポン球ほどの黄色い果実をつけた植物を見つけた。紫色の小さな花も咲いている。花と果実の形から、どうやらナス科の植物らしいと見当をつけたが、何という植物かわからない。海外での観察ツアーでの楽しみはこうした植物との出会いである。とはいえ、多くの場合図鑑というものが手に入らないので検索することもままならない。黄色の果実はフォックスフェイス(角ナスSolanum mammosum)を彷彿とさせるが、角はなく球形にナスのヘタがついているといった案配だ。したがって黄色いイヌホウズキに似ている。 ナス科ナス属の一年草で、学名は Solanum intergrifolium。英名は Chinese scarlet egg plant, Ruffled tomatoに該当するのかも知れないが、確信は持てない。
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 集落周辺は多少の起伏があって、その 丘の斜面の森(ブッシュ)は切り払われ他後に火が入れられ、バナナ畑へと変わりつつある。ウガンダでは主食としてバナナを蒸してつぶした餅(マトケという)?のような物を食べる。ここで栽培されたバナナは、自家消費分もあるが多くは近くの町に集められ、首都カンパラの市場へと送られる。重要な収入源となっているのだそうだ。   やっと、サファリに出かけてきたが、まだ昼飯にもならないうちに紙面が尽きた。
この続きは、また。