生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

ウガンダ紀行ーその5

<キバレへ>
 朝9時過ぎにカンパラを出発して2時間半ほどがたった。すこし空腹を感じ始めてきたところだ。
あと30分も走ればムベンデ(mubende)という町に着く。カンパラから150Kmほどのところにあり、フォートポータルとの中間地点に位置する町である。
地方の中核都市らしく商店が軒を連ねている。車は幹線道から外れ、町の商店街へと入っていく。
町のあちこちに薄紫の花(マメ科の樹木)がほこりっぽい風景に彩りを添えている。
やがて車は町外れのレストラン前で止まり、ここで昼食をとることに。
ここは前回、下見したときにも立ち寄ったレストランで、塩味のスープで煮込んだ鶏肉のおかずと、ごはん、マトケ(バナナ)、ヤムイモの蒸したものの3種類を盛りつけた定食である。
わたしはマトケがどうも苦手である。
img_3373甘酸っぱい、サツマイモにも似ているのだが、この甘さと酸味の組み合わせがどうもいけない。
それに対して、ヤムイモを蒸したものは、ヤマノイモ特有の癖がほどよく、しっとりしたおいしさがある。ということで、私はいつでもマトケを除いたものを注文することにしている。あっさりしたスープとこくのある鶏肉をおかずのアフリカのローカルフードを満喫したのである。

 時刻は午後1時少し前、我々は、キバレへ向けて再び車に乗り込んだ。やがて車窓からの風景は一変し、なだらかな丘陵地帯一面には緑美しい茶畑広がっていることに気がついた。
ウガンダはイギリスの植民地だったこともあって茶の栽培が盛んである。
このあたりは適度な湿度と朝晩の冷え込みもあって、品質の良い茶葉が生産されているという。
 茶畑を貫く幹線道路をしばらく走ると今度はこんもりとした森の中にはいった。
この森がキバレ国立公園の一部なのだという。フォートポータルの手前10kmあたりに、国道をこえて国立公園の一部が張り出している部分がある。まさにその部分なのである。
キバレ国立公園は、ウガンダ南西部、ルエンゾリ山岳地帯の東側に南北に広がる、面積766㎢の公園で北部の森林帯と南部の湿地帯を有し、南部で大地溝帯へと連なる。
 この公園は、チンパンジーをはじめレッドコロブス、アビシニアコロブス(クロシロコロブス)、アカオザルや様々なゲノン類などサル類が多く生息し、その観察には絶好の条件がそろっているが、アクセスの問題やアコモデーションの不備などがあって、チンパンジートレッキング以外ではあまり利用者が多くはなさそうだ。
南部の湿地帯は野鳥観察にはもってこいの場所であるが、同じように利用者は多くはなさそうだ。
私たちの最大の目的は、言わずもがなのチンパンジートレッキングなのだが、オナガザル科の霊長類も魅力の一つである。
 今日の目的地であるCVK(ロッジ)へは、フォートポータルの手前を左に折れて10㎞ほどの距離である。
ということはあと約20㎞、40分ほどのドライブで目的地に到着するはずである。と思っていると車は予定より早く未舗装のあまり広くない道を左へ折れた。
ガイド兼運転手のデウスによれば、こっちが近道なのだそうだ。道がまっすぐに延びていれば、地理的な位置からして近道であることは理解できる。

それに果てしなく続く茶畑の丘陵(写真)を走るのも気持ちいい。
だが、 気持ちいいことは気持ちいいのだが、実は少し複雑な思いもある。アフリカといえば大自然が残る大地という印象を持つ人は多いと思うが、しかし実態は全く逆で、一部の告国立公園や保護区を除いてはほとんど本来の自然は残っていない。徹底的に農地(プランテーション)に転換されてしまっている。
しかもそこから上がる収益の大部分は現地の人々には還元されず、収奪型の農業が蔓延しているからである。
美しい風景の背景には悲惨な実態が隠れているのである。
とはいえ、絶望ばかりしてはいられない。現状を変えるにはまず多くの人に実態を知ってもらう必要がある。このエコツアーもささやかながらそうした目的を持っているのだ。
 ほかに走る車もなく、車は赤茶けた道を砂埃を巻き上げながら、茶畑を疾走する。360度茶畑というところで車を止め、小休止とする。もうすぐそこなのだがそんなに先を急ぐ必要もない。
今日はのんびり行けば良いのだ。おのおのカメラをだしてこの雄大な茶畑風景を撮影し始める。
沼本さんは魚眼レンズを持っているのでそれを借りて畑の風景を撮影してみた(写真)。
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そんな我々を横目に見ながら、バナナを満載した自転車をおして歩く人にであった。
ウガンダで主食となるマトケを栽培し、それを売りに行くのであろう。かなりの距離をこうして運んでいくのだからかなりの重労働なはずだが、そこで手にする現金はいくらにもならないはずである。
 小休止終わり。
 再び車は土埃をあげながら、南下をつづける。とまもなく遠くに森が見え始tea1めたところで、CVK Laleside Resort の看板が目に飛び込んできた。

ここである。CVKとはいったい何を意味しているのだろうか?
実はここは、私の友人の案渓さんが紹介してくれた施設である。
ここの経営者であるRuyookaご夫妻はかつてマケレレ大学で教鞭をとっていた方で、案渓さんとは親しい間柄なのだそうだ。私がウガンダへ行くことを案渓さんに告げると彼は、即座に、「CVKへ泊まりなさい、私の友人が経営しているおもしろい施設があります」と助言とも命令ともとれるようなメールをいただいた。
それにしてもCVKっていったいどんな意味なのか聞いてみたところ、Crater Valley Kibaleの略だという。
確かにここは火口湖のほとりの谷間にある。大変風光明媚な場所である。
ここでRuyookaさんご夫妻は、エコロジー運動の実践として宿泊施設を運営し、数々の環境賞を受賞しているというのだ。
CVKの省エネぶりの一例を紹介しよう。

uganda20120401224写真8はシャワー用の湯を沸かすボイラーであるが、これは利用者自身で薪を割って湯を沸かさねばならない。施設利用の説明時に、シャワーはお湯が出るまでに30分ほどかかると言われたが、その理由がこれである。装置は至ってシンプルでコンクリート製の竈の上に水を入れたブリキ缶をすえただけのものである。我々一行は7名であるから、当然湯は足りない.沼本さんが一生懸命に薪を割って湯を沸かしたのだが、ある一人の女性がそのお湯を全部使ってしまい、沼本さんは汗をかいて水シャワーを浴びるという悲惨な体験をしたのである。部屋もお世辞にもすばらしいとはいえないが、ロケーションはすばらしく、部屋の全面には火口湖が広がり、朝靄に煙る景色はすばらしい。
 とまあ、こんな楽しい体験をしている間に、日も暮れた。明日はいよいよチンパンジートレッキングである。
<続く>