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生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

HFMエコロジーニュース108(265)オケラを食う-タイの昆虫食

   すっかりなじみが薄くなってしまったケラ(おけらと呼び習わしている)であるが、どんな昆虫か覚えていますか?
昔、子どもの頃によくやっていた遊びの中に、このケラを捕まえて「おまえの○○どーのくらい?」といいながら、すこし指に力を入れると、このケラが前肢をめいっぱい広げる。
なんとも単純な他愛もない遊びだが、なぜかオケラを見つけるとこれをせずにはいられなかったことを覚えている。
 このケラ(おけら)の詳しい情報は http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%A9
を参照していただくとして、簡単にその容姿を紹介してみる。なんと言ってもオケラの特徴は、前足にある。地下生活に適応しているためにモグラのような頑丈な幅広のスコップ様の形をしている。
さらにコオロギの仲間でありながら、腹部はビロード状の細毛おおわれて虫のような感触とは一線を画す。
そのなめらかな感触はなんとも気持ちが良い。羽は短く退化し、とても飛べるようなものではなさそうだ。
ただ発音のための装置として残っているようだ。
 そんなオケラはどう見ても食物とは見えないし、食べてみよう言う気はさらさら起きないのが我々、現代の日本人の感覚である。しかし諸外国では事情は全く異なる。
 今の日本では信州の伊奈地方などの一部地域を除いては、そもそも昆虫食そのものが消滅した食文化といえるかも知れないが、少し時代をさかのぼれば、日本各地の山間部でも貴重なタンパク源として昆虫食はそれほど珍しいものではなかったことは、筒井嘉隆著「町人学者の博物史(1987)」や三橋淳編著「虫を食べる人々」(1997)などからもうかがい知ることができる。
このオケラをはじめ、ムチンと呼ばれるオオコオロギやキンバエの幼虫などタイでは比較的よく食べられている。
IMG_4675特に有名なのがタガメなどの水棲カメムシ類で、私は遠慮しているが、好きな人はメロンの良い香りがするといって珍重している。
 質はこのオケラを食べたのは今回が初めてではない。
以前、カオヤイ国立公園でボランティアをしている女子大生たちが私たちの焼き肉パーティーに参加したことがあった。
そのときプラチンブリのマーケットで、彼女らがどこからかオケラの素揚げとおそらくキンバエの幼虫と思われる素揚げのスナックを仕入れてきた。その折に一口試食をさせてもらったことがあり、香ばしくておいしかったことを覚えている。そんな経験をしてからは、このスナックを探し歩いていたのだが、なかなか見つけることができないでいた。それが、このたび、プラチンブリのマーケットで見つけたのである。
 okera-2店は2軒あったがそのうちの1軒を覗いてみた。
どうやら一番右が探していたオケラのように見えた。
店主は若いイケメンのお兄さんである。オケラとおぼしきものを指さして味見を申し出ると、ニコッとほほえんでひとつまみ差し出してくれた。
やはりオケラである。
ただ食感がカリッとしていないので前回食べたものとは違っていた。
しばらく飼うべきかどうか思案していると、運良くお客がきてこのオケラを買い求めていた。てっきり店頭に並べられているものをそのまま売るのかと思っていたら、そうではなかった。その様子を見て、記憶にある食感との違いの原因が氷解した。
これはそのまま売るというのではなく、注文があってから、調理して売るものなのだ。注文を受けたお兄さんは、適量の下処理されたオケラをすくい上げ、香草をまぶすと、それらを脇に準備してある油鍋に投入し、素早く素揚げにする。
カラッとしたところですくい上げ、油を切り、調味料を振りかけて、紙パックに入れて完了。実に手際がいい。
okera-3okera-4okera-5一連の作業を見ていて、決心がついた。続いて私も注文すると、同じく手際よく調理してくれた。料金を払おうとすると、くだんのお兄さんは、にこにこしながら、いらないよ。もっていきなと言う。
ということで、念願のオケラの素揚げをゲットした。熱いうちにひとつまみ口に放り込むと、何とも香ばしく油と塩のコンビネーションが絶妙でおいしい。姿形になれてしまえばなんと言うことはない。かりっとした香ばしいスナックである。
 セミはエビの味というが、これはエビ殻の香ばしさ、天ぷらのエビのしっぽとか頭の部分とかのいわゆるキチン質を揚げた香ばしさである。ポテチチップス感覚に近いが、より動物質の食感。ケビンに帰ってカウチオケラでも楽しもう。
 こんなおいしいものを一人で味わうのももったいないので、同行の皆さんにお裾分けしようとしたら、皆さん生返事ばかりで、食指が動かないらしい。
やはり、昆虫は食べ物ではないという文化圏の人には少々ハードルが高すぎたのかも知れない。
そして店のお兄さんが無償提供してくれたのもこんなところに原因があったのかも知れない。
昆虫を食べたそうにしている風変わりな日本人(イープン)が珍しかったのではないだろうか。
タイの食文化に共感し、勇気を振り絞って注文してくれたと見てくれたのだろう。その勇気に免じて、今回は無償提供しようという気になったのに違いない。
 実においしいスナックをいただいたものだ。これだから旅は楽しい。
異文化を身をもって体験できるからね。
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