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生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

HFMエコロジーニュース109(266)

ブナハアカゲタマフシ
 tmahushi-1通い詰めた地域でも、おやっ?と思う出会い、発見があるのが自然というものである。5月6日、巷間で言われるゴールデンウイーク最終日に当たる日曜日。西中国山地細見谷はほとんど人影もなく、強い日射しにブナの若葉が輝いていた。一年の内で最も明るくさわやかな季節は一瞬にして過ぎ去る。細見谷では冬のあとほぼ半月ほど春となり、その後はもう初夏である。このときを逃せば、雪解けの清冽な冷気と強い春の日射しを堪能することはできない。本当に貴重な季節である。ただ、オタカラコウやウド、などはまだまだクマの食糧となるほどには成長していない。この季節は主に、チュウゴクザサのタケノコが食べ頃でクマが食糧に困ることはない。例年だと、深い雪に押されて地面に倒れているはずのササも今年はすでに直立しており、積雪が少なかったことを物語っている。
 この日は、昨年6月から年間を通して測定してた水温計(テータロガ-)の回収が主目的である。これまで長期にわたる水温データはほとんどなく、地球温暖化が言われる今日において長期にわたる水温変動のデータは貴重な資料となる。ただ、本音を言えばもう10年ほど前からのデータがあればと思うが、今からでも蓄積していく価値はある。というのも、最近とくに河川の水量の反動が大きくなって気がするし、それと共に渓流魚の生息密度が低下し、特に秋の産卵期にそれが顕著に現れているという印象があるからだ。一般にサケ科渓流魚は水温18℃をこえると生存率が激減すると聞かされてきた。そこで細見谷水系の水温の年変動を長期に記録し、モニターすることの必要性を感じたというわけだ。幸いこの作業は食性調査の片手間にもでき、調査費もそれほど掛からない。貧乏NGO向きの仕事ではある。
 まずはデータロガーを設置した細見谷川の支流へ入る。ここはゴギの産卵場にクマがやってくる沢で、貴重なフィールドである。沢筋にそってボタンネコノメソウやチャルメラソウ、ンツドウダイといった野草を観察しながらゆっくりと遡上していくと、ピンクのかわいらしい花のようなものが附けた灌木に目がとまった。どうやらブナのきらしい。が、ブナにこんな色と形の花が咲くことはない。試しに花のようなものを割って中を見てみると、中心部にはブナの
花のようなものが認められた。もしかしたら、花芽にできる虫こぶ(虫癭・ちゅうえい)かもしれない。が、どうもこの毛玉は花芽というより葉の表面とまだ展葉していない芽の部分にできているようだ。
 現場ではなんだかわからないが、おそらく虫こぶということにしておき、帰宅後、検索してみたところ、予想通り、「ブナハアカゲタマフシ」というタマバチによる虫こぶであることが判明した。ただ、どの情報でもブナの葉の上面にできると書いてあるのだが、どうも葉の表面だけでなく、葉柄の基部や花芽部分にも形成されるふうにも見える。それにしても、こんなかわいらしい虫こぶには初めてお目に掛かった。新緑が青空に映え、そのなかにぽつぽつとピンクのぽんぽんがアクセントを添えて、春らしさを一段と演出している。こんな小さな発見もフィールドワークの楽しみの一つである。

編集・金井塚務 発行・広島フィールドミュージアム                              
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