生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

HFMエコロジーニュース113(通算270)

アカショウビンの巣作り
 前回の調査行では、ミゾゴイのペアを発見していたので、その後の状況を把握しようと出かけたのだが、あいにくミゾゴイとの出会いは果たせなかった。今、細見谷渓畔林を題材とした某自然番組の取材中なので、その素材探し(とはいってもツキノワグマの暮らしをメインに考えているのだが)に余念がない。
 樹の花もその一つなのだが、梅雨を前に細見谷渓畔林にはヒメレンゲ、ラショウモンカヅラ、ヤグルマソウ、ミズタビラコ、チャルメソウなどが水辺に彩りを添えている。
これらの写真は「細見谷渓畔林調査行」
でご覧いただけます。
 氾濫原の水たまり(池)にはおびただしいヒキガエルのオタマジャクシがうごめいたいる。姿は見えないものの、タゴガエルの笑い袋のようなクヮッ、クヮックヮッッとい声や玉を転がすようなカジカの声に混じってモリアオガエルの声も聞こえる。森の奥からは、エゾハルゼミの声やオオルリの囀りが聞こえてくる。林道の水たまりでは、ミヤマガラスアゲハの吸水行動が見られ、久しぶりに細見谷に生き物の息吹を感じることができる賑やかさが少しではあるが戻ってきたようだ。
ただ、クマの痕跡は相変わらず少ない。が、それでも、シシウドやオタカラコウなどを食べた真新しい食痕を確認することはできた。6月10頃には熟したヤマザクラの果実を食べに姿を表すに違いない。そして、ミズキもウワミズザクラもまあまあ豊作になりそうな気配を漂わせている。
hosomi-5290052細見谷川をさかのぼっていると、それほど遠くないところから、<キョロロロー、キョロロロー…>とアカショウビンの声が聞こえてきた。
 しばらくその声のする方向を確かめようと、待っていると、今度はさらに近くからも聞こえてきた。そしてその鳴き声は鳴き交わすかのように、2カ所から交互に聞こえるではないか。どうやらすぐ近くにペアのアカショウビンがいるようだ。鳥に詳しい杉さんが、おそらく巣作りをしているのではないかと言う。アカショウビンは、キツツキ類のように樹の幹に巣穴を穿って、育雛するのだが、堅い生木を穴を穿つ力はない。多くの場合、ブナの枯損木など腐朽がある程度進んで柔らかくなったものを選んで巣作りをするらしい。と目の前の斜面正面になるほどお誂え向きのイヌブナの枯損木がある。そのイヌブナは幹の途中で折れ、立ち枯れているがそれほどふるくはない。正面に小さな穴が空いていて何かの巣穴のようにもみえる。これかと思ったがこれは思い違いだった。と、この枯損木のすぐ近くに一羽のアカショウビンが止まっているのを見つけた。すぐにカメラのレンズを望遠に取り替え、狙うが、やはり少し暗い。なるべくぶれないように絞りを開放にしてシャッタースピードをあげるが、限界である。梢に止まっているアカショウビンをレンズ越しに観察するが、赤いくちばしの艶が見事である。と、枝から飛んだとおもったら、すぐに元の位置へもどる。こんなことを3回ほど繰り返したあと、さっと飛び立て例の枯損木に向かった。とおもったら姿が消えた。えっ、と思っていると、突然赤い何かが幹から飛び出してきて、先ほどの梢にとまった。やはり、アカショウビンはあのイヌブナに巣を掘っているにちがいない。今度は心の準備ができているので、巣穴とおぼしきところに焦点を合わせて待っていると、一直線にアカショウビンが小さな穴に飛び込んでいくのが見えた。ただし、おしりの一部が見えている。飛び込んで穴の入り口に留まり、上体を穴に突っ込むとすぐにUターンして飛び出していくことを繰り返している。うまくいけば、ここで子育てをするに違いない。それを思って、なるべく邪魔をしないよう長居することをやめた。これからが楽しみである。もしかしたら、このよう巣はテレビを通じて皆さんにお届けできるかも知れません。乞うご期待。
hosomi-5290053hosomi-5290052広島フィールドミュージアムではこうした細見谷渓畔林での調査を行っています。絶滅の危機が迫るツキノワグマ始め生物多様性を維持するために、西中国山地国定公園の特別保護地区への指定を目指しています。こうした保護活動へのカンパなどのご支援をいただければ幸いです。
カンパ送付先は、広島銀行宮島口支店、普通 1058487
広島フィールドミュージアムです。
今年は、自動撮影(動画)装置を使用して、ツキノワグマの魚食と細見谷における生物の活動記録を中心に調査を行う予定です。