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生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

HFMエコロジーニュース114

難航した細見谷調査行
 細見谷渓畔林を舞台に、某TV番組の取材が進行している。ここに生息しているツキノワグマの生態もその対象となっており、真夏の渓畔林に稔るウワミズザクラの果実を目当てにやってくるクマの姿を記録するために設置したカメラを回収すべく、22日土曜日に入山することにした。
 道々、予想通りウワミズザクラの食痕が確認できたので、大いに期待してカメラの回収に向かったのであるが…。
 林道入り口まで来ると、工事中に付き通行不可の看板が出ているではないか。一抹の不安を抱えながら、とりあえず林道へはいる。と、500mばかり入ったところで、生コン車と出会う。道は狭く離合はできないので、仕方なくバックすることに。ようやく離合できる場所まで来て、運転手さんに様子を聴くと、崩落した路肩の工事だそうで、この少し先が現場だという。現場には重機も置いてあって通り抜けはできないとのこと。とはいえ、このまま引き下がるわけにはいかない。台風の心配があって、これ以上カメラを放置しておくことはできない。かといって、歩いて行くには遠すぎる。
 残る手段は、十方山を迂回して安芸太田町側の二軒小屋方面から入る方法があるのだが、こちらの道路事情は極めて悪く、どこまで入れるか心配である。が、それしか方法はなく、やむを得ず数十キロを迂回して内黒峠を経由して現場へ行くことにした。
 安芸太田町側の十方山登山口までは何とか車が通れるだけの整備はされている。問題は水越峠をこえた廿日市市側の林道状況だ。案の定、とても走行できる状態ではない。大きな石が積み重なった林道は道と言うより川底といった方がいい。それでも何とか下山林道分岐まできた。ここから先は、よく知った道なので一安心と入ったところだ。
 12時少し前に、現場到着。何を置いてもカメラの回収に向かう。細見谷川を渡り、トチの巨木が茂る谷の小さな支流沿いに仕掛けたカメラの回収に向かう。予想通り、ウワミズザクラの食痕が確認できた。が、肝腎のカメラがひっくり返されている。本体は無事だったが、雲台のパン棒のとって部分がしっかりとかじられていた(写真)。_8220004レンズ部分が下側になっていたので、どこまで写っているか、いささか心配である。もう一台は沢の上流を向けて設置しており、こちらは無事であった。クマは下流方面からやってきたのかそれとも上流方面からやってきているのか、はたまた全く予想外の動きをしていたのか、まもなく明らかになるだろう。
 さてカメラはなんとか回収できたので、早々に引き上げることにした。帰りは、道路状況を考えれば工事現場を通らせてもらうしかないだろうと言うことで、細見谷渓畔林の状況を観察しながら吉和西出口方面へ向かう。
 渓畔林を抜け、まもなく山の神というところで、大変な事態になっていた。法面崩壊である。規模こそ大きくはないが、大きな落石が道の真ん中にあってとても通り抜けることはできそうにない。道の左側は川で、路肩は5mほどの崖になっている。さてどうするか、思案にくれた。Uターンできるところまでバックし、来た道を延々と帰るか、何とか落石を除くか移動させて通り抜けるかである。
 杉さんとしばし検討し、持てる工具を使って通り抜けることにした。時刻は12:45。林道工事の休憩時間に通過させてもらう予定だったが、これはもう無理だ。それより本当に通り抜けることができるか、そちらの方が心配である。あと20cmちょっと大きな石を法面側に移動させればぎりぎり通り抜けることはできそうだ。それでも路肩が崩落すれば一巻の終わりである。
 車に積んであったのこぎりで倒木を切り出して梃子にし、ジャッキで持ち上げてこじると少しだけ大きな石も動く。さらに石頭で角を落とし周囲の石をのけてさらに同じ行程を繰り返すこと1時間あまり。なんとか車が通れそうな幅を確保することができた。杉さんに路肩の状況を見てもらいつつ石に当たらないようにゆっくりと車を進め、無事通過。ここを通過してしまった以上、工事現場を通してもらえないと大変なことになる。何しろもう二度と崩落現場は通過できそうにないのだ。
 幸いなことに、工事現場で事情を話すと快く重機を移動させ、通過させてもらうことができた。
 で、話はこれで終わりではない。これからが本論である。
 ツキノワグマは秋にブナ科のドングリを採食することが知られている。ブナの果実もその一つなのだが、ブナは夏の終わり、すなわち8月中下旬頃から食べているという我々の仮説の確認である。ブナに関してはどうもかなり早い時期から未熟な実を食べているらしいことはわかっていた。それはこの仮説を推測させるにたる食痕の状況からの判断で、実際に夏の終わりにブナのクマ棚を見つけたというものではない(杉さんは過去に確認しているとのこと)。
 林道を抜けて、尾根一つ越えた細見谷川水系の沢に入ってみることにした。ここは秋になるとゴギが産卵に集まる沢で、クマをはじめタヌキ、アナグマ、ホンドイタチなどのケモノが翌姿を見せるところでもある。ここ数年、台風や集中豪雨の影響で、倒木が多く、沢の様子は大きく変化してきている。今年は川底に細かい泥土が堆積しており、やや心配な状況である。そしてまた、ここはブナやウラジロなどの採食地となっており、ツキノワグマにとって重要な場所である。
 今年のブナは樹によってかなりばらつきがあるが、ここのブナには豊作となっているものがある。そのブナに新しい棚ができていた(写真)。
_8220024_8220022_8220012このブナはクマが好むのかよく棚ができている樹である。同じブナでもクマが利用する樹とそうでない樹とある。その理由は定かではないが、平均値ばかりを追いかけている生態学もどきではこの違いは無視されてしまう。
 樹の幹には大小2種類の爪痕が残っていた(写真、右下にコドモの爪痕、左上にオトナの爪痕が見える)。親子のものであろう。先日、カラマツ林で遭遇した親子なのかも知れない。直線距離にすれば1Kmほどの近さである。食痕の鮮度からして、この数日の出来事のようだ。
 クマサルもそうだが、稲穂が熟して実が堅くなる前のジューシーな時期に田んぼの稲を食害する。おそらくブナもそうしたジューシーな果実が好みなのではないだろうか。だからといって、熟したブナの実を食べないわけではない。周囲の状況、つまりウワミズザクラの果実だとかアリやハチ、アブなどの昆虫類の多寡などによって、臨機応変に振る舞っているということなのだ。
 大変な調査行となってしまったが、実りも多い1日であった。

 編集・金井塚務 発行・広島フィールドミュージアム
この調査は、広島フィールドミュージアムの活動として行っています。当NGOは細見谷渓畔林をに西中国山地国定公園の特別保護地区に指定すべく調査活動を行っています。特にツキノワグマにとって重要な生息地であり生物多様性に秀でた細見谷渓畔林域はツキノワグマサンクチュアリとして保護するに値する地域です。
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