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生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

細見谷にクマの痕跡を追って-HFM エコロジーニュース115

 年々歳々、ツキノワグマの中核的生息地と言われている、細見谷流域でも痕跡が希薄になりつつある。その一方で、集落周辺への出没が問題視されているのも事実である。クマの集落への出没は、多くの場合、個体数の増加と山の実りの多寡と関連づけて報道されているが、どうも実態とは大きな乖離があるという不快さをぬぐいきれない。
 秋晴れの9月27日(日)、細見谷流域のクマの動向を把握するために定例の調査に出かけた。今年のクリ、ミズナラ、ブナなどの堅果類もミズキなどの液果類も、実りはまだら模様だ。つまりあるとろでは豊作模様だし、またあるところでは不作ないし凶作といった状況である。
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 上の写真は、8月のウワミズザクラに残っていた今年の爪痕である。幅9~10cmあり、やや大型の個体(おそらくオス)の 爪痕である。とはいえ、実の具合に比べても痕跡はそれほど多くはなく、生息密度が低下していることがうかがえる。そのことを裏付けるかのような現状がクリ、サルナシなどの利用状況にも見て取れる。今年、クリは豊作とまでは行かないまでもそこそこの実りがある樹がある。
 細見谷の手前、主川流域(国道488沿いとその周辺)では、わずかにクリの食痕とクマ棚が見つかったのだが、それでも利用度は高くはない。ということは利用するクマが少ないということだ。
autumn-7autumn-16これまで、クマの生息地が拡大の一途をたどっており、それに比例して推定個体数も増加傾向を見せている、と理解されてきた。少なくとも公式にはそのような見解がとられている。しかし、肝腎の個体数推定の方法の信頼度は未だ未知数なのだ。それは多くの非現実的過程に基づいた仮定をとらざるを得ず、ある意味やむを得ないことなのかも知れない。しかし出没地域が拡大すれば、主要生息域での推定値が大きく減少しない限り、増加傾向となるのは、この手法から導かれる必然の結果となる。
 フィールドでの継続観察からすれば、奥山の本来の生息地では空洞化が起きているというのが実感なのだ。
たとえばクマの中核的生息地とされている細見谷渓畔林では、予想に反して、クリもミズキ、クマノミズキもサルナシもクマに食べれた形跡がない。クマだけではない、テンやアナグマなどのほ乳類の痕跡はおしなべて希薄である。
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 上の写真は細見谷渓畔林で見つけたヤマブドウである。細見谷でこれほどまでにたわわに実ったヤマブドウを見たのは初めてである。他の株はそれほど実をつけていなかったのだが、川沿いにあるこの株だけは、豊作である。しかしこれを食べる鳥もケモノもいないことが、なんとも不気味である。サルナシもまだ未熟とはいえ、食べられないままに残っている。こうした傾向はここ数年続いている。集落周辺でのケモノの賑わいぶりとは対照的な静けさは、ケモノたちの生息地が奥山から一次生産が利用されなくなって総体的に生産力が高くなった集落周辺の二次林へとシフトしていることの現れと見るべきなのだと思う。autumn-14