生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

川に生きるー新村安雄 読んでみませんか

 ニホンザルの行動学、生態学に没頭していた頃には、川の問題についてはそれほど強い関心は持っていなかった。というより持ち得なかったというべきだろう。しかしながらニホンザルの進化に伴う諸問題を考えるうちに、哺乳類としてのニホンザルを考えるという視点から、やがて学問的な関心は大型哺乳類の生活史へと広がってきた。中でも西中国山地ツキノワグマの生態調査を行うことになってからは、川の生物生産という点を無視し得ない重要な問題であることに気がついた。

 そんなところに、西中国山地国定公園内の細見谷渓畔林を縦貫する「大規模林道計画」への反対運動に関わることで、森林ー川ー海という流域一体の生態学的視点は必要不可欠なものとなった。

 ついでにいえば、アサリの養殖に手を染めたことで実生活にも直結する問題になってきたのです。

 幸い、この細見谷渓畔林を縦貫する大規模林道問題は中止となったのだが、しかし全国各地での森林、河川、海岸の破壊は今でも止むこことはなく、日々、破壊は続いている。それは野生生物の生息を危うくするだけではなく、地域の人々の暮らしをも破壊する。しかし地域外の人にとっては自身の問題としてとらえることはほとんどできていない。こうした問題はやがて私たちの将来を破壊するものであるという認識が持てないことに少なからぬ苛立ちを感じて入るがもどかしい限りである。

 とはいえ、希望が全くないわけではない。御用学者に比べれば数は少ないものの、人々の暮らしという視点から、自然破壊の問題を捉え、告発している研究者・学者・市民はいるのである。

f:id:syara9sai:20181016145045j:plain

 先日、中日新聞者から発行された、「川に生きるー新村安雄」はそんな希望を持たせる好著である。

 もとは中日新聞に連載されたものを再編集して上梓されたものであるが、大変読み応えがあるものに仕上がっている。人々にとって川が暮らしとどのように関わってきたのか、魚(ほとんど鮎だが)の暮らす場としての川とは、そして川を取り巻く破壊の現状など、広い視点で書かれた本書は、自然保護の意味を人の暮らしと関連づけて考える格好の教材となっている。

 自然保護は人の暮らしと不可分であるのだが、多くの市民は「自然好きのわがまま」程度にしか理解していなことも事実である。自然を保護するということは、目先の暮らしを意識しつつも将来にわたる子々孫々にわたる生存をかけた運動であることを多くの市民に理解してもらうにはどうすればいいのか日々悩みはつきない。

 この「川に生きる」は決して保護運動を大上段にかまえるのではなく、流域の人々との交流をとおしてその辺のことをじんわりと伝える記事にあふれている。

 行政や政治に携わり、政策の意思決定に関わる人たちには是非、目を通していただきたい一書である。

 もちろん、学生諸君にも市井の皆さんにも一読していただき、自然保護に対する認識を新たにしていただきたいと思っています。

1300円+税です。図書館へのリクエストもいいかもしれません。