生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

赤道直下で考えた-コリオリの力の嘘

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 先日やんばる調査の合間に、以前訪れたウガンダの思い出話に花が咲いた。赤道直下でのある見世物についてである。
 赤道とは言わずと知れた緯度ゼロで北半球と南半球との境目である。2度目の訪問はちょうど春分の日を数日過ぎた頃だったので、正午ともなると太陽は頭の真上にあって、日影というものがなくなる。現地の人々も野生動物も強烈な日射を避けようと小さな木陰を求めてそこに集う。

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日蔭を求めて集う

 まさに赤道を体感したのであるが、その赤道直下では、観光客相手に面白い実験をして見せる人たちがいる。コリオリの力を可視化してみせるというものだが、多くの観光客は簡単にだまされてしまうところがまた面白い。事実同行者の幾人かは、この見世物の説明に納得していたのだから。

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 装置は至って簡単なものだ。底の真ん中に直径1cmほどの穴の開いた浅い円錐形の器を台に置いただけのものである。
まずはじめに、この装置を北半球側に10mほど移動しておいて、そこでそこの穴を指で塞ぎ、器に水を注ぐ。水を張ると、よく見ておくように言ってから、水を止めていた指をゆっくりと離す。するとどうだ。水は時計回り(右回り)に渦を巻いて落ちて行くではないか。ついで演者は、この装置を南半球側に移動し、同じことを行う。すると今度は見事に反時計回り、つまり左巻きの渦となって水が落ちていく。
 演者曰く、これがコリオリの力の証明であると。
 そこで、では赤道直下(ラインの真上)で行うとどうなると質問すると、空とぼけて実演してはくれなかったように記憶している。これをインチキだと目くじら立てるのは野暮というもんだ。赤道直下ならではの見世物だし、第一観光客相手の貴重な現金収入なのだから、金持ちの観光客は四の五の言う話ではない。
 コリオリの力というものは確かに存在する。ただしかし、この赤道を挟んで数メートルの違いで水の渦の方向を決めるほど大きなものではない。なぜならコリオリの力は緯度θ(sinθ)と円運動(地球自転)の角速度に比例するので、赤道直下数メートルの違いは無視できるほど限りなく0に近いからである(sin0=0)。
 渦の方向はおそらく指の離し具合を調整しているのだろう。
 こうした楽しい嘘はいいのだが、日常の政治に関する欺しを見過ごすことはできない。ちょっと考えればわかる嘘が毎日のように政府から発せられ、メディアを通じて拡散していく。自ら考えを止めたその先に何があるのか。じっくり考えようではないか。