生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

西中国山地における風力発電計画に対する意見書(アセス方法書)

「(仮称)広島西ウインドファーム事業環境影響評価方法書」
が縦覧されています。
意見書の受付もしていると言うことで、何の役にも立たないのを承知で簡単な意見書を提出してみます。
これって本当に何の役にも立たない「やりました。聞きました」というだけの制度なのです。事業主体の電源開発に言ってもなんの意味もない意見書ですが、皆さんに届けばこんな見方もあるのか程度には参考になるかもしれません。
ということで、環境アセスメントというものを考える参考資料としてアップします。
かつて、大規模林道問題で保全調査委員会の議論をめっためったにした経験から、本当に意味のあるアセスメントとは何か身にしみています。
どんどん、声を上げて、実効あるアセスメントを求めていきましょう。
*意見書本文には写真は含まれていません。

 

風力発電計画における環境アセスメント方法書に関しての意見
 
 計画地は西中国山地の外縁部に当たり、集落との結節部における二次林帯は多くの野生生物の生息地としてその重要性は高まっている。西中国山地生物多様性の維持にとって極めて重要かつ最後の砦ともいえる地域である。近年、ツキノワグマの集落周辺への出没が相次いでいる状況は当該地域のブナ科堅果類をはじめ、ミズキ、ウラジロノキ、サルナシなどの液果類の豊凶に依存している可能性が高い。
 計画地周辺にはニホンヤマネやモモンガ、コテングコウモリをはじめ小型コウモリ類など多様な野生動物が生息しているが、個体群動態はもちろん、食性や繁殖生態、環境利用など具体的な生活状況はほとんど把握されていない。

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ノウサギ、ムササビ、モモンガのフン(大きい順に。雪中越冬するコテングコウモリ、樹洞に木くずを詰めて冬眠するヤマネ

 一見、均一に見え森林でも、生活主体となる種もしくは個体にとって、森林が有する価値は一律ではなく、環境の利用度は大きく異なる。動物には移動能力があるとはいえ、環境の激変は生活の維持そのものに直結する可能性が高く、個体群の維持という点から見れば、森林を改変して大きな人工構築物を設置することは決定的な変化となる可能性が高い。単にいかなる種が生息しているか否かといった、個体生息状況調査では個体群の維持に関する評価はできない。影響評価をするならば、少なくとも個体群の動態を含めた生活史の実態を把握するだけの具体的事実を時間をかけて調査する必要がある。
 生物には「何故そこでそのような暮らしをしているのか」という歴史的偶然性とそれによって現在の暮らしが存立するという必然性がある。生物とは個々無関係に存在しているわけではなく、長い進化史の中で構築されてきた同種他種を含む生物群集及び無機的環境との相互作用の結果(動的平衡)である。
 移動の力の低い動物群集や植物、生活範囲の狭い動物たちに与える影響はさらに大きい。尾根筋あるいはそれに近いところの森林伐採、道路開設などは、その後予見される乾燥化をもたらすであろうし、新しく出現する法面には外来種の侵入も予見される。こうした初期の変化はやがて周辺の地域の生態系を大きく変容させることになることは容易に想像できる。
 例えばツキノワグマのさらなる集落周辺への出没であったり、法面の植生(外来種草本類)を利用するイノシシやニホンジカの侵入や増加である。こうした植生や動物相の変化は次第に集落における被害増大につながり、ひいては集落の存立までも脅かすことになる。

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法面の崩落は毎年のように生じる。法面植生は外来の草本。シカやイノシシの餌場となる。

 こうした危惧に答えられるだけの内容をもつものでなければ、アセスメントとはいえない。方法書に開陳された内容ではとても納得できる内容ではない。生物群の生息状況リストづくりのようなものでは不十分であり、実効あるアセスメントへの変更を強く求めます。