生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

渓畔林へは入れず―芸北漫遊の一日

 さる自然保護団体が10月下旬に、クマ関連の講演会(くまもりカフェin広島)を企画しており、それに続く現地観察会を細見谷渓畔林で行いたいので、協力してほしいとの依頼があった。初版の事象があってこのところ細見谷へ入っていなかったので下見に行くことにした。

 ところが台風14号が、細見谷のある広島県西部に大雨をもたらし、河川の氾濫もあったので、林道の常態に一抹の不安があった。我が家から細見谷へ至る県道は佐伯地区で小瀬川沿いに県道、国道を走ることになるのだが、数カ所で道路が陥没するなどの被害が出ていた。幹線道路でこれなのだから、元々悪路の林道はもっとひどいのだろうと思いつつ現地は向かった。

 吉和地区に入り、匹見方面へ抜ける国道434号へとハンドルを切ったのだが、この国道は酷道と呼ばれるように道幅は狭く、匹見地区以遠は通行止めとなったいたのだが、今回は吉和分岐点から先は通行止めとなったいた。やむなく、並行して走る広域基幹林道を利用する殊にしたが、この林道も管理状態が良いとは言えず、あちこちで舗装が剥がれている。林道は作るだけ作るが、維持管理はなし、という典型的は具体例のようだ。ただこの林道沿いは間伐作業が続いているので、かろうじて通行禁止とはなっていない。そうしてようやく、十方山林道入り口までたどり着く。ここから先、渓畔林へと続くこの林道は5年程前から一般車両の通行が禁止されているので、通行には事前に許可が要る。通年調査を続けているので、手続きに遺漏はなくゲート(鎖)は解錠して通過できるのだが、予想通り、林道は洗掘がひどく、早々に計画変更を強いられることになった。

 渓畔林がだめなら、大規模風力発電計画がある市間山ー立岩山のブナ帯を視察してみようかと思い、戸河内方面を目指す。が、こちらも林道閉鎖があって断念。やむなく内黒峠を超えて横川地区へ抜けようと思ったが、この道も閉鎖。八方塞がりだ。ここまできたら三段峡研究会(さんけん)を表敬訪問して情報交換をと思ったのだが、事務所は無人でこれもだめ。

 最後の手段として、芸北の刈尾山(臥竜山)と八幡湿原、及びそこに隣接する大規模風力発電計画地の視察へ切り替える。とまあ、災害地視察のような一日になったのだが、決して無駄足だった訳ではない。この日、出会った様々なことをつらつら紹介してみよう。

 まず、国道196号線を吉和へと向かうと、小瀬川太田川との分水嶺を超える手前に飯山という小さな集落がある。典型的な過疎集落で、廃田が広がる中、一部の田畑は県の農業監修地としてかろうじて農作業が続いていたのだが、それも終了したのか、今では荒れ果てた草地にソーラーパネルが設置されていた。かつて「消えゆく集落・消える食糧生産の現場 - 生きもの千夜一話 by 金井塚務」としてこのブログで紹介したところである。事態は一段と厳しくなっているのを実感する。食糧危機には目もくれず、ひたすら高エネギー消費社会へまっしぐらな日本に未来はあるのだろうか? 

 渓畔林へのアプローチを断念してあちこち動き回って、とりあえずブナ林が残る刈尾山へ行き、林道のどん詰まりで昼食をとることにした。樹木の隙間から島根方面に大きな風車が見える。あとで現場へ行くことにしてとりあえず飯。同行したメンバーはコンビニ弁当だが、私は自分が管理する浜で採れた「大野浅利」の炊き込みご飯をおにぎりにしたもの。彼らには申し訳ないが、自前の生産物ということで勘弁してもらう。ご飯を食べながら何気なく足下を見ると、ホオノキの果実かとまがうようなものがたくさん落ちている。ミズナラの虫こぶですね。というのだが初めて見るものだった。そう言われてみれば青いミズナラのドングリが混じっている。どうやらミズナラミイガフシ(写真)というもののようだ。

こうなるとクマはミズナラのドングリをあてにできなくなるだろう。クリは豊作に近い実りだったが、コナラ、ミズナラなど堅果類は不作ないしは凶作。ミズキもあまり実りは良くなさそうで、これらをクマ利用した痕跡は吉和でも少なかった。八幡湿原に隣接して島根県側に大規模な風車群が設置されていて、県境ギリギリまで迫ってきている。効用までにはまだ少し早いようだが、刈尾山のブナが心なし生気が無いように見えた。森全体がスカスカのような感じで生物の気配が薄いように思える。気のせいだろうか。それならいいのだが、これまでの経験からすると最近、奥山からはクマの姿が消えつつあるのは確かなようだ。

 刈尾山をあとにして八幡湿原へ向かう。ここでは久しぶりにカンボクに出会えた。同行した若者たちは、カンボクの赤い実の匂いを嗅ぎ、顔をしかめていた。これは不味い果実の代表だと教えると、その審議を確かめるために一口食べたのだが、そのまずさにたまらず悲鳴を上げていた。試してみる心意気に乾杯。

ミゾソバとススキが美しかった

何やら樹木が茂った湿原をパスして、例の風力発電施設の現場へむかう。道はここも最悪。途中落ちている大きな枝をのけながら進むのだが、そこで、大変美しいシマヘビの黒化型に出会うことができた(写真)。

 ガタガタの林道を進み県境を越えると、大規模破壊の現場へでる。この現場については私のFBで紹介してあります。

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