生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

大規模再エネ事業か、それとも美しい農村風景かー農村の未来を問う

 メガソーラー&大規模風力発電計画が目白押しの東北地方宮城県丸森町加美町へ現地視察とシンポジウムに招かれて行ってきた。成瀬ダム問題以後、久しぶりの東北なので、用事が済んだあとは、仙山線奥羽線米坂線羽越線を乗り継いで、山寺と村上市(新潟)のサケ漁や加工品製造などを観てこようと計画を立てたのであるが、台風による交通障害の為、村上市行きは断念し、その代わりに、江戸時代における循環型農業の発祥地である三富(上富・中富・下富)地区と川越郊外の雑木林を観てきました。

 今回はこの旅で観てきたこと感じたことについて書き留めておくことにしましょう。

宮城県丸森町

 最初に訪れたのは丸森町西部の耕野(こうや)地区は干し柿とタケノコの産地として暮らしを、地区の外れを流れる阿武隈川は、美しい景観を見せてはいるがその反面災害をもたらす暴れ川でもある。2020年の台風19号による斜面崩落、それに伴う土石流、河川の越水による道路の崩壊などの災害の傷跡が生々しい。こうした災害の中でも最悪だったのが2011年の福島原発事故であろう。この事故による放射線物質汚染は実に深刻で、降り注いだ放射税物質(主にセシウム137-半減期約30年)のために未だに一部農産物の出荷できない状況とのことだ。

 民家周辺は除染が済んではいるものの、山林はほぼ手つかずのままである。そんな中、住民の方々は再生に向けて日々活動している。そうした住民の努力を無視するかのようにメガソーラーが進出し、さらに大規模風力発電計画も持ち上がり、住民の反対運動も熱を帯びてきていて、今回の訪問は環境法律家連盟と再エネ問題全国連絡会合同の現地視察と意見交換のためのものである。

 丸森町周辺の地質は花崗岩が風化した真砂土地帯が多い。現地視察してみてわかったのだが、至る所に土石流の痕と思われる地形があり、ほとんどの谷には土石流で堆積した土砂を整備してできた棚田が散在している。

 人々は過酷な災害を乗り越えて、棚田を開き美しい景観を造成してきたことがうかがわれる。紛れもない文化遺産的な村落なのだ。まさに禍を転じて福となすということなのだが、最近の防災に名を借りた土木工事は、災い転じてさらなる災いとなす的な大きな疑問を感じる。台風19号による土石流があった現場でみたが、それはひどいものだった。知恵がなさ過ぎるのだ。過去を知る地元住民意思を政策に反映させる工夫がいるのだと感じた。生半可な土木技術が生物多様性という自然の価値を無視して、直近の災害のみに焦点を当て、広い視野にたった長期にわたる展望を持てないものにしているのかもしれない。ここはいったん土建屋マインドを捨てるときなのではないだろうか。

 川は流速を弱めるために川床もコンクリート製、護岸もコンクリート製の排水路となり、砂防ダムは長大な土石流の滑り台的構造となっている。まるで生きもののことは眼中になく、今だけなんとかなれば的発想の土木工事がまかりとおっている。

 とまれ、このような崩落しやすい真砂土の斜面の森林を皆伐し、土砂を削ってソーラーパネルを設置したり、尾根筋に大規模な道路を開設して風車を建てれば、大規模な土石流を誘発する危険性が大きいことはわかるはずである。それだけではなく、大規模な地形変更は、地下水脈の遮断の原因となるが、個別の工事や事業との因果関係は特定できない。それゆえ保証問題も、地元では泣き寝入りとなるケースがほとんどである。更には、除染されていない土壌内の放射性物質の再拡散さえ心配される。そうなれば風評被害では済まされない深刻な実害をもたらしかねない。まさに生存に関わる問題となる。これはまさに環境正義(公正)に反する行為である。ただ、現行の法制度ではこうした問題を解決することはできそうにない。一にも二にも、地元の人たちの努力ということになる。住民共通の意思として土地の提供を拒むことができればいいのだが、公有地であったり、個人の事情でそれもなかなかうまくは行かない場合もある。そうした過酷な状況の中で、どのような解決策を見いだすことができるのだろうか。現在の強欲資本主義に抗するのは難しいのだけれど、丸森町の景観の素晴らしさは一つの武器になるようにも感じた。

 近い将来、日本は重大な食糧問題に直面するに違いない。そのときになって初めて食糧生産基地としての農山魚村の価値が再評価されるはずなのだが、それまではなんとしても破壊から護る手立てをしておかなければならない。車を運転しながら、丸森町のあちこちを走っていて見つけた農村風景は実にのどかで気高い。電線の地中化などの工夫をこらせばさらに景観の価値は高まる。都会がうしなったのどかな景観は新たな観光資源としての価値を持つのではないだろうか。おそらく視察団のだれもがその価値を感じとったに違いない。

 とにかく、丸森町の景観は素晴らしく、それは近い将来、最大の財産となるに違いない。