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生きもの千夜一話 by 金井塚務

大型ほ乳類の生態学的研究に関するエッセイ、身の回りの自然、旅先で考えたことなどをつれづれに書き連ねました。

HFMエコロジーニュース115-細見谷へ春を探しに

 

 例年だと、雪が解けて細見谷へ入れるようになるのが4月中旬から下旬なのだが、今年はどうやら雪解けも早いのではないかとという気がして、まだ3月だというのに杉さんと一緒に下見に出かけた。 案の定、主川をさかのぼって林道入り口付近まで来ると、斜面には少しばかり雪が残っている。さすがに早まったようだ。それでもと、林道へ入ってみたが、300mほど行ってみたものの、その先の林道にはまだしっかりと雪が残っていた。あえなく断念する。

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 山腹のブナを見るとイヌブナの花芽、葉芽があかく膨らんでいるのがわかる。もうすぐ芽吹きだ。そしてこの膨らんだ花芽を目当てにクマがやってくるかもしれない。細見谷ではブナの花芽を食べたフンをいくつか見つけているが、比較的少ないのは何故だろう。沢筋のオタカラコウやササの新芽(タケノコ)やシシウドなどにより引きつけられるのだろうか。
 渓畔林行きを断念し、支流の一つろくろ沢へ入ってみる。空気はあくまで冷たいが、日射しは強く春が近いことを肌で感じる事ができる。この時期にしては水量が少ないが透明度は高く、その清冽さはなんともいえずいいものだ。所々にゴギの産卵床らしいものも見えるが、どうも生き物の気配は薄い。チャルメルソウもまだ芽吹き前だし、残雪の上にはトチ実の殻やブナの殻斗、枯れ葉が冬の名残をとどめている。

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 沢筋に一つ、フキノトウが顔を出していた。春一つ、発見。

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 こころくろ沢は生き物の気配の濃いいい沢だったのだが、年々、巨木が姿を消し、沢の状態も悪化しているようだ。特に今年は、雪の降り方が例年とは違って、湿って思い雪がどかっと降っては溶けを繰り返したようで、トチノキ大枝がねじれ折れてい、それが沢を夫妻であちこちに小さなダムを形成し、よどみが増えている。それに伴い、河床には泥が堆積し、大きく様相を変化させている。
 そうしたよどみに、おしどりがひっそりと越冬しているのが見えた。この沢周辺はおしどりが営巣するのに都合の良い樹洞が多く、貴重な繁殖地となっているようだ。

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 沢沿いの湿地で妙なものを見つけた。動物の毛のようなものだが、どうやらノウサギのものらしい。ノウサギの毛皮は捕食者に捕まるとすぐに破れてしまう。皮を斬らせて身を助くということのようだ。この谷にはオオタカハイタカ、フクロウはもちろんクマタカも姿を見せ、猛禽類の狩り場ともなっている。ノウサギも安閑とはしていられないのだ。 そうこうしているうちに、黒い雲が広がり、雪がちらついてきた。寒い。
 ヒキガエルもまだ出てきてはいない。あと2週間で一気に春となりそうな気配を感じつつ、ろくろ沢を後にした。

追記
 今年の雪はスギの植林地にも被害をもたらしている。手入れの悪い植林地のスギは、生育も悪く、細いスギが密に生育しているので、まるで楊枝の林のようにみえる。そこに重たい雪が枝に積もるのだから、少し強い風でも吹けばたちまち折れて倒れてしまう。主川沿いの植林地でもそんな光景を見ることができる。ただこうして折れたスギの植林地はやがて林床に陽が差し、埋土種子が芽吹いて本来の植生が復活する可能性が高い。すこしそっとしておくことも一つの方法ではある。

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やんばる地域の国立公園化計画の問題点

 沖縄本島北部のやんばる地域を世界自然遺産登録を目指す政府は、同地域の国立公園化を計画している。しかしこの計画ではやんばるの自然を保護するためのものではなく、かえって多くの生物の生息地の分断をもたらし、孤立した個体群の衰退を招く危険性があるとして、以下のような意見書を記者会見をして公開するとともに関係各省庁に提出することにした。

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意見書・やんばる地域の公園化計画の問題点

   2016年3月、環境省沖縄本島北部のやんばる地域を国立公園化する方針を発表した。これは世界自然遺産奄美琉球」への登録をにらんでのことだという。国立公園の設置は自然公園法に基づき、その優れた自然の風景地を保護するとともに、その利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資するとともに、生物の多様性の確保に寄与することを目的としている。これまでの国立公園は風景地の保全と利用に重きがおかれ、生物多様性の保護はその下位に置かれていたと言っても過言ではない。しかしやんばるの国立公園化の方針が世界自然遺産登録のためにあるとすれば、優先すべき目的(機能)は、固有種を含むやんばるの生物相の保護・保全にあることは言をまたない。そこでここではこの計画案がやんばるの個体群保護にどのように関わるのかという視点から検討してみることにする。この計画ではやんばるに生息する固有種をはじめ地域個体群を維持し続けることは不可能であり、むしろこの計画が実施されることで公園域外の森林生態系の破壊が歯止めなく続く可能性すらある。以下その理由について少し具体的に説明してみる。

 

1.指定地域が狭すぎる

 沖縄本島のやんばるでは国立公園として指定される地域(陸域)は13632㏊で、やんばる地域、約34,000haの40%に過ぎず、その内訳は以下の通りである。

 

 

 

 

やんばる全域に対する割合(34000ha)

特別保護地区

    790ha

  5.8%

  2.3%

第1種特別地域  

   4,402ha

  32.3%

  12.9%

第2種特別地域  

   4,071ha

  29.9%

  12.0%

第3種特別地域  

   3,334ha

  24.5%

   9.8%

普通地域       

   1,035ha

   7.6%

   3.0%

陸域合計       

  13,632㏊

 

  40.1%

 

  この区分けについての問題点は後述するが、決定的に指定面積が狭すぎることを指摘せざるを得ない。やんばる地域よりやや狭い西表島については、全島を国立公園化(29000ha)する方針であることを考えれば、やんばる地域の公園化計画の問題点が浮かんでくる。その背後には、やんばるの林業問題がある。やんばる地域では主に国頭村で県と村が競うように森林整備事業を展開してきたし、今後も継続することを目論んでいる。たとえば国頭村でも村有林で5ha規模の皆伐(1~数カ所)を毎年続けている。

 このようなやんばる地域における林業の問題点は、パンフレット「生物多様性保全の視点から考える-やんばるの今と未来」でも指摘されているように、育材をめざすいわゆる本土の林業とはことなり、様々な名目の補助金で成り立っている林業もどきの事業と言わざるを得ない。

 一方、県営林では「やんばる多様性森林創出事業」(平成25年から3年間)と称して伐採(皆伐)をしており、森林の劣化は年々深刻な状況になっている。

  やんばるの国立公園化計画の環境省案が何を目的として立案されたのか理解に苦しむのだが、少なくともやんばるの生物多様性や固有種を含む種または個体群の保護に有効に働く規模になっていないことは指摘しておかねばならない。これまでのやんばる地域における森林整備事業(森林施業や林道開設など)が自然破壊の元凶として起こされた住民訴訟(通称・命の森やんばる訴訟)では、世界自然遺産登録を目指すという環境行政との整合性がとれないとして、これまでの森林整備事業の不合理さを指摘し、事業続行に一応の歯止めをかけた。しかしこの環境省による国立公園化計画が実施されるとなれば、その縛りが外れることにもなりかねない。逆に言えば、環境省が県や地元自治体に配慮して、国立公園化区域をきわめて限定的に設定したものと受け取れる内容となっている。

 つまり国立公園区域を限定すること、特に規制の厳しい特別保護地区や第1種特別保護区域を限定することで、裁判所の決定を事実上覆し、合法的に自然破壊ができる計画となっていることを指摘しておく。つまり、本来の世界自然遺産にふさわしいやんばるの生物多様性の保護を目的とした計画ではないということに大きな問題がある。

 では、やんばるに固有な自然(生物多様性)の保護を目的とするためにはどのような計画であるべきなのだろうか。それについて検討してみよう。

2.保護地区の区分けの問題点

 前述したとおり国立公園には保護の必要性に応じていくつかの区分がなされている。ここで開発による現状変更(破壊)が厳しく制限されるのは、特別保護地区とせいぜい第1種特別地域だけで、それ以外の地域では事実上、利用に厳しい制限はなく、開発が可能となる地域である。これまで多くの国立公園・国定公園、天然記念物指定地域ではあらかじめ開発計画がある地域においては本来特別保護地区に指定してしかるべき地域であっても、意図的に第2種特別地域より下位の保護地域とされてきた事例は少なくない。たとえば、西中国山地国定公園内の細見谷渓畔林(大規模林道計画)や天然記念物・阿蘇北向谷原始林(立野ダム計画)などがある。

 やんばる地域は、大宜味、国頭、東の三村(面積は34000h、S-Tライン以北で約30000ha)にまたがる本島北部の森林帯を指し、イタジイやオキナワウラジロガシが優占する亜熱帯常緑広葉樹林帯が大半を占めている。ここにノグチゲラヤンバルクイナ、トゲネズミ、ケナガネズミ、リュウキュウコテングコウモリなどの小型コウモリ類、ヤンバルテナガコガネリュウキュウヤマガメ、イシカワガエル、クロイワトカゲモドキなどの固有種をはじめ幾多の在来種が生息している。それ故、政府としても世界遺産登録を目指すのであろう。そうであればやんばるの森に見られる固有性と多様性の保護を保証する要件を備えた内容であることが必然的に求められる。そうした十分な保全措置を前提として、その利用が許容されるはずである。

 ところがこの計画案の内容を見る限りそうはなっていない。たとえば、やんばるの自然生態系にあって重要な要素であるオキナワウラジロガシは、うち続く皆伐によって年々減少していることが推定されている状況にあって、伊江川流域には比較的まとまった群落が残っている。中でもオキナワウラジロガシを含むやんばるの原型的な森林植生が保存されている林道・楚洲仲尾線の計画地一帯は全て第3種で開発可能な地域に指定される予定となっている。同じく謝敷の森も第3種で破壊から逃れることはできない【別紙1・2参照】。

 これらはほんの一例に過ぎない。厳密に保護される地域はきわめて狭く、極論すれば保護地域は限りなく0に近いと言うべき計画に驚くばかりである。

 本来、保護区の設定は科学的な調査に基づいて計画されなければならない。それは国際条約(世界遺産条約および生物多様性条約)で課される義務でもある。

 たとえばノグチゲラ1種を考えても次のような視点が欠かせない。

 ノグチゲラは主にイタジイを営巣木として利用しているが、それもイタジイならばどれでも良いというわけではない。直径20~30センチを超える太さを持ち、巣穴の前方に適度な空間が確保できる、材が堅過ぎないなどの要件を備えていることが重要である。その上で固体維持のためにどれほどの餌資源が必要かなどを考慮し、さらに個体群として維持するためにはどの程度の個体数、生息密度が必要かを科学的に推定するという作業が欠かせない。保護区の設定はそういう手順を踏んでなされるべきである。

 しかるに近年、ノグチゲラの分布域の拡大や営巣木の変化(タイワンハンノキやリュウキュウアカマツ)などをとらえて、個体数が増加しているとの論調もあるが、仮にそれが事実であったとしても、これは必ずしも喜ぶべき現象としてとらえることはできない。なぜなら、これは本来の生活資源がまかなえず、その代償として人為的な環境へ順化した結果とも見られるからである。この順化あるいは馴化という現象は、場合によっては人為淘汰を促し、本来の生活様式を営むことができない個体群の拡大をもたらす可能性がある。その行き着く先は、野生個体群の絶滅である。この顕著な例は、安田(あだ)地区の養豚場のミミズに依存したヤンバルクイナである。これは餌付けに近い人為的環境下での個体数増加で、本来の生息地である森林内での個体群の動態は不明である。もしヤンバルクイナがこうした人為的環境下でしか生息し得ない状況下に置かれれば、それはほぼ、野生個体群の絶滅を意味している。

 保護区域を限定し、その周囲に広がる森林(バッファゾーン)を皆伐し、自然環境を破壊することを許容するとすれば、フイリマングースなどの外来種に適した環境の創出にもなりかねず、やんばるに固有な在来種個体群の縮小再生産をもたらすであろう。そのような自然を世界自然遺産と呼べるのであろうか。

 また、やんばるの自然の固有性は目に見えるレベルにとどまらず、ササラダニ類などの土壌生物、菌類やそれとの共生体(ラン科植物など)などきわめて複雑である。つまりはその複雑な自然は長い進化の過程において形成されてきた歴史の産物でもある。世界自然遺産とはこうした歴史的(進化)産物の保護・保全を求めるものである以上、それにそった保護区の設定が求められることはいうまでもない。

 環境省が示した保護区区分では、個体群の孤立化と分断を招き、長期的にはやんばるの生物多様性を毀損し、種や個体群の絶滅を招来するものに鳴りかねない。

 つまり、保護区の設定は土地利用(開発)を前提にするのではなく、個体群維持を基本に据えるという意味では、環境省案は全く評価に値せず、強く再考を促したい。

 

なお、やんばるの自然貴重性と破壊の現状等は

 「生物多様性保全の視点から考える-やんばるの今と未来」日本森林生態系保護ネットワーク・やんばるDONぐりーず  2014年 

 「やんばるの森のまか不思議」 沖縄大学地域研究所 2011年

を参照のこと。

 

【別紙1】特別地域での伐採について

【別紙2】謝敷で行われた2015年度の皆伐

 

2016年3月23日

 

               日本森林生態系保護ネットワーク(CONFE Japan)

               代  表   金 井 塚       務

               やんばるDONぐりーず

               共同代表   喜   多   自   然

                      赤   嶺   朝   子

               顧  問   平   良   克   之

               NPO法人・奥間川流域保護基金

               代  表   伊   波   義   安 

               環境NGO・やんばるの自然を歩む会

               代  表   玉   城   長   正 

               沖縄・生物多様性市民ネットワーク

               共同代表   河   村   雅   美

                      吉   川   秀   樹 

               泡瀬干潟を守る連絡会

               ジュゴンネットワーク沖縄

               ジュゴン保護キャンペーンセンター

               「ヘリパッドいらない」住民の会

               琉球列島を自然遺産にする連絡会

               世話人    伊   波   義   安

               日本鱗翅学会会員

                      宮   城   秋   乃 

               日本甲虫学会会員

                      楠   井   善   久 

 

                            (以上順不同)

                     (連絡先)

                      沖縄県那覇市松尾2-17-34 

                      沖縄合同法律事務所

                         弁護士 喜  多  自  然

                      TEL098(917)1088 FAX098(917)1089

 
【別紙1】特別地域での伐採について

 

自然公園法上,国立公園の特別地域(特別保護地区を含む。)における伐採は,環境大臣の許可制である(法20条3項2号,21条3項1号)。しかし,許可基準(法施行規則15条)を見ると,おおむね下記の条件では伐採が可能とされている。

第一種特別地域:単木伐採,択伐(伐区における蓄積(立木の材積)の10%以下)

第二種特別地域:択伐(伐区における蓄積の30%(用材林)・60%(薪炭林)以下)

皆伐(伐区内の2ha以内)

第三種特別地域:制限なし。

択伐においても,伐区の設定の仕方や択伐の方法によっては大規模伐採が可能である。沖縄県は2013年より「やんばる多様性森林創出事業」と称して,帯状伐採,群状伐採,小面積皆伐等の検討を行っている。帯状伐採,群状伐採では,伐採場所を広く取れば皆伐と変わらない状態になるが,形式的にこれを択伐として位置づけることで,上記の許可基準の下でも皆伐と変わらない伐採が可能になる。実際にやんばる多様性森林創出事業では帯状伐採を択抜と位置づけた上で,皆伐と同様の伐採を行っている。

また皆伐においても,1伐区内で2ha以内と定められているにすぎず,同時に複数箇所で皆伐をすることや,毎年場所を変えて皆伐を繰り返すことも可能である。

第三種特別地域については全く制限がなく,大規模伐採が可能である。

したがって,伐採について規制が制度的に担保されているのは特別保護地区(やんばる全体の2.3%)のみである。

以 上

提出先 環境省沖縄県林野庁国頭村大宜味村、東村など

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うんちコロコロうんちはいのち

うんちコロコロうんちはいのち   きむらだいすけ さく・え
岩崎書店 2016年

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 うんちは排泄物とも呼ばれるように、多くの人は、不要なものいらないもの、あってはならないものと考えているかもしれない。たしかにうんち(フン)は動物が消化できないものを身体の外へすてるべきものなのだが、捨てる神あれば拾う神ありともいうように、不要物を利用する生き物がいることを忘れてはいけない。その意味ではうんちは排泄物でもあるが、生産物でもある。
 ただうんちにはたくさんの毒も含まれていたり、ひどく臭かったりする。だから排泄(生産)した動物や人にとっては直接の価値はない。とはいえ、このような毒もある生き物にとっては毒にはならないということがあるから生き物の世界は不思議でおもしろい。においだって、いやな匂いもなれればいい香りになることもある。
 たとえば、「くさや」という魚の干物は大変臭いが、なれれば大変おいしい食べ物となる。おいしい食べ物となれば、その臭さもごちそうに変化する。
 世の中は一事が万事これだ。多面性というのだろう。
 であれば、くさいうんちだって、おいしい食べ物として、あるいは生活の場としている生き物がいたっていいだろう。それがこの絵本のテーマである。
 動物の排泄物であるうんちを食べ、そしてそこに卵を産み付けて再生産する。この昆虫はうんちの中で生まれ、うんちの中で育つ。そして成虫となってもうんちを糧に生きる。このフン虫(フンコロガシをはじめとするコガネムシの仲間)だってうんちをする。そのうんちだって別の生き物(バクテリアなど)の食べ物(資源)となる。そしてやがて窒素や二酸化炭素などの無機物へと分解されて、大気や大地の中に戻っていく。つまりうんちはいのち(いきもの)をつなぐ一つの輪になっているということなのだ。
 とはいえ、うんちならどんなうんちでも良いというわけではない、ふんころがしにとっておいしいうんちもあればそうでないうんちもある。ここもまた面白いところである。フンコロガシが好きではない、ライオンのような肉食どうぶつのうんちを好むフン虫ももちろんいる。 うんちを通じていのちがつながっていることを楽しみながら知ることができる。なにしろ子どもたちは、とにかくうんちが好きなのだ。これは是非子どもたちに手にとってもらいたいし、おとなたちにはうんちのうんちくを子どもたちに語り聞かせてほしい。
 話は少し横道にそれるが、私もきむらだいすけさんの父親である木村しゅうじさん(漫画家にして日本を代表する動物画家・笑点カレンダーでもおなじみ)とは40年来の知り合いで、一緒に仕事をしたこともある。なかでも、サルを描かせたら右に出る人はいないとの評価を受けている木村さん挿絵を描いていただいた「にほんざる」(いちい書房)で吉村証子記念・科学読物賞(第6回 1986)をいただくことができたことは、私にとって数少ない記念碑である。
 うんちコロコロうんちはいのちの絵のタッチ、その雰囲気は木村しゅうじさんを彷彿とさせる。さすがに親子だなと感心したのである。ただ一つだけ欲を言わせてもらえれば、うんちをする際の尾の具合がもうすこし付け根をもちあげてその先を弛緩させるとよりリアルになるにちがいない。
 じつは私もかつて、うんこを巡る生態学入門を目指して、「うんころじー入門」なる本を出す予定で原稿をかいたことがあった。しかしその後あれこれとあって、原稿は手直しをすることもなくお蔵入りになってしまったり、「シカのフンからガラスを作る」というテーマで絵本をと思ってそのままになっていたりと、動物のうんちを巡ってはふんぎりの悪いことばかりだったので、この絵本は、私にとってもいい刺激となる作品での一つに違いない。
 世の中に「うんち(フン)」にまつわる図鑑や絵本は少なくないが、このように物質循環(いのちの連鎖)という視点(生態学的視点)で描かれたものはあまりお目にかからない。そこにこの絵本の価値がある。生き物は暮らしを通じて皆どこかでつながっているということを楽しみながら読み取っていただければ幸いである。 

 

消えゆく集落・消える食糧生産の現場

  この冬はどこも雪が少なく、寒暖の差が激しい。この急激な温度変化は生き物に大きな影響を与えるに違いない。場合によっては地域個体群の絶滅にもつながる可能性もあるだろう。このことについてはまた別の機会に譲ることにするが、温暖化がもたらすこうした変化は大きな問題となる。

 私が仲間とツキノワグマの調査フィールドとしている細見谷渓畔林地域(廿日市市吉和)は、知る人ぞ知る豪雪地帯でもある。冬の間、2mほども積もることもまれではない。今年はあまりにも雪が少ないのでもしかしたらと思って、ドライブがてら様子を見に行ってきた。

 さすがにまだ車が入れるような状況ではなかった。入山はもう少し待つことに。おそらく、4月初旬には入れるような気がする。もしそうであれば、ヒキガエルのカエル合戦(集団包摂行動)を見ることができる。過去に一度、見ただけだが、それは壮観なものだ。クマの活動もまだ先のことになりそうだし、春の到来を楽しみに待つとしよう。

 さて、その帰り道のことだ。旧吉和村を出て、旧佐伯町飯室にはいった標高700mあたりも沿道は雪に覆われ、小さな集落の畑も雪に埋もれていた(写真)。飯室は佐伯地区の最奥の集落である。写真左側の大きなスギに囲まれてこの集落の社叢があり、このスギの幹にはクマの爪痕も残る。f:id:syara9sai:20160219095944j:plain

 いかにものどかな風景なのだが、じつはこの集落、ほとんど空き家なのだ。畑も耕作されず、ススキの草原へと変貌しつつある。秋には美しい風景となる。日本の中山間地域の典型的な風景である。最近では、研修農場として一部活用されているようだが、経済至上主義の農業では、生き残れるような場所ではない。

 高齢者だけの集落では基盤整備など農業に欠かせない労働力が確保できず、しかも小規模過ぎて、効率化もなにもあったものではない。せいぜい自家消費の自給的農業がせいぜいだろう。つまり、農業としては成り立ち得ない地域なのである。今日の社会においては、こうした自給的農業は無意味なものとして切り捨てられるのが当たり前なのである。人はすべからく職につき、幾ばくかの生活費を稼ぐ場がなければ暮らしていけない。勢い、中山間地域では補助金がでる事業や土建業に頼らざるを得ない。しかしそれは持続しないので、集落崩壊を少し先に延ばすだけのことにすぎない。

 しかしその一方で、世界的に食糧、水が欠乏し、それらの資源を奪い合う国家間紛争の種になっている。わが日本も決して例外ではない。食糧の大半を海外に頼り、その結果、水の乏しい国から大量の水(バーチャルウォーター)を買うという矛盾を抱え込んでいる。今は他国の食糧を買い付けることができているが、そんな時代はいつまで続くのであろうか。破綻は間近に迫っているかもしれない。

 グローバルに活躍することは決して褒められることばかりではない。他人の資源を奪うことでしか成り立たない社会ではなく、自前の自然の中で慎ましく暮らせる社会を選ぶ時期が来ているのではないだろうか。

 食糧生産の現場をつぶして、ひたすら工業製品の製造、サービス、金融に走る社会が持続するはずはない。いい加減に目を覚まそうよ。

 この雪景色の中にというメッセージを見たのである。

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引っ越しをしました

これまで主に、野生動物を対象にした生態学的なエッセイと海外エコツアーに関する記事を掲載してきたのですが、今後はもう少し幅広い記事を発信していこうと思っています。どうぞよろしくお願いします。

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 写真は主なフィールドとなっている西中国山地の細見谷渓畔林です。ここはツキノワグマの中核的生息地として知られており、原生的自然が色濃く残るところです。

HFMエコロジーニュース116(通算273号)

 クマ調査での思わぬ発見
 10月下旬から11月初旬にかけて、細見谷川流域ではゴギの産卵シーズンとなる。この時期にクマがゴギを求めて小さな沢にやってくるということはこれまでにも何度か報告している。しかしながら、魚影の薄い昨今ではなかなかその現場をつかむことは難しものである。それでも一縷の望みをかけて、某放送局の取材が行われている。
 「さわやか自然百景」とかいうこの番組では細見谷渓畔林の一年を紹介することになっているようだが、その中でツキノワグマの魚食が紹介できればということで協力しているのだ。時間と取材費の制約を受けながらだから、可能性としてはかなり低いがそれでも西中国山地の細見谷渓畔林の素晴らしさは十分紹介できることと思う。
 ここ数年、クマやゴギを取り巻く生息環境の変化は激しい。とくにゴギの産卵床となる沢は集中豪雨や台風で倒れたブナなどの残骸が沢をせき止め、土砂の堆積状況が大きく変わったため、産卵床の数も減少している。しかし渓畔林とは本来そうしたもので、常に攪乱が生じるものである。長い目で見ればそれが多様性と生産性の維持に貢献しているのだろうが、一時的には生存への脅威ともなる。ここ数年は、再生前の状態が続いており、クマにとっては暮らしにくい状況にあるようだ。
 今年は晩夏のブナはそこそこ利用されていたし、ウワミズザクラへの執着も見られたが、秋にはミズキ、クマノミズキ、ウラジロノキ、アズキナシといった液果類が不作だった。クリ、コナラ、ミズナラの堅果類は場所によってはそれなりの収量が見込めたが、あちこちにクマ棚ができるほどでもない。ただ、落下した堅果を拾い食いしている様子が垣間見られたので、ごく少数の個体群ならば何とかやって行けそうではある。
 細見谷のような中核的生息地における痕跡の希薄化とは裏腹に、集落周辺への出没が世間を賑わしていることでクマは増加しているとの風評が流れているが、フィールドを歩いている限りクマの生息環境は悪化の一途をたどっていることは間違いない。すぐに絶滅ということはないにしても、けっして安心できる状況ではないし、むしろ危険な方向へ向かっているように思う。
 クマの痕跡や気配を求めて森(沢筋)をさまようのだが、今回の調査では、思いもかけぬ生物との出会いや生々しくも微笑ましい生活痕にも出会うことができたので、それらを簡潔に紹介してみよう。
20151104-1
痕跡を求めて
 ゴギの産卵現場とクマの補食行動を撮影しようと細見谷川の支流の源流域に入った。所々にゴギのペアが産卵の準備のために集まっているものの、肝腎のクマは姿を現さない。今年はこのあたりに親子連れ(親1,子2)が確認されているが、若い世代のクマは魚食には無関心なのだろうか。
 近くの林道法面では植林されたヒノキの幼齢木が倒れ、地面が割れて空洞ができている。そこにオオスズメバチが何匹も集まって右往左往している。どうやらオオスズメバチの巣があり、クマがその巣を掘り返したようだ。
 このようにクマの痕跡はあるにはあるのだが、その気配は薄い。ゴギの産卵床の状況もいまいちの感じがしたので、しばらくご無沙汰している下流域を見てみることにした。下流域も以前より倒木が多く若干景観が変わってきている。しかし産卵床として利用できる場所は源流域より多い。ただし川幅が少し広く、沢には隠れやすいくぼみや倒木などが多く魚影は上流域より濃いようだが、クマにとっては捕食しにくい環境にちがいない。流れは緩やかで小さな落ち込み、瀬、小さな淵が連続しているのは源流域と変わらない。
 と、沢にかかる朽ちた倒木に鳥の羽毛が散乱している。尾羽の大きさや色からするとツグミのようだが、アカハラかもしれないと同行の杉さんは言う。私が写真をとっている間に杉さんは十数メートル先で川の中を覗き込んでいる。事件が起きたのはこのときだ。子細は後述するとして、少しばかりこの日見つけた野生動物の生活痕の話をしてみよう。
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20151104-17 この日は普段歩かないルートをあるきながら沢を取り巻く森林内の状況を把握することにした。沢から離れ、尾根筋を液果の実りの状況とフン、爪痕、食痕などの生活痕を探してみようということだ。
 年をとってくると滑りやすい斜面を歩くのはかなりしんどい。かつてのような広域の探索ができないのもやむを得ないが、その分は経験に裏打ちされた勘が頼りだ。そこで歩きやすい尾根道を歩くことにした。晩秋の落葉林は明るく美しい。空の青さと赤、黄、緑が織りなす色の共演とさわやかな風に疲れを癒やしつつ歩く。
 ゆっくりと歩くことで、様々な生活痕がめに飛び込んでくる。見逃しそうなクマ棚や爪痕、どれも親子と見られる痕跡ばかりだ。大きな個体(オス)の痕跡はない。少しばかり古いがドングリを食べたクマのフンも落ち葉に半ば埋もれて見つかる。
 タヌキのためフンにはサルナシの種子が、それにしても少ない。テンのフンもほとんどない。イノシシの馬耕も少なく、ここ数年全体としてケモノは減少しているようだ。休耕田や廃田が広がる集落周辺での個体数増加とは裏腹に奥山はケモノの過疎化が進行している。
 林道へ出てみると道路端に落ちていたクリの実はすっかりなくなり落ち葉とイガが残るのみ。ミズナラの果実はまだまだ残っている。おそらくクリはクマが拾い食いしてしまったのだろう。法面にはびっしりとクマイチゴが繁茂している。これもケモノを集落へ導く資源となっている。いまやケモノたちは人のいなくなった集落周辺で命をつないでいるのだろう。
 舗装道路の真ん中につぶれたクマのフンを見つけた。つぶれていたが紛れもなくクマのフンである。変なつぶれ方をしているのでよく見てみれば、何とクマの子どもの足跡がくっきり残っているではないか。母親のフンを子どもが踏みつけて行ったのだろうか。ここは2日前に雨が降っているので、足跡はその雨が上がった後に附けられたものの可能性が高い。
 と、今度は道ばたでヒミズ(モグラの仲間)のばらばら死体を見つけた。血の色も鮮やかに頭と尻尾が切り離され、腸管の一部が残るものの胴体部分がない。こんな食べ方をするケモノはいない。杉さんの推測では猛禽類の仕業ではないかと言う。それにしてもきれいに頭と尻尾を切り分けて、律儀に残して言っているのも見事な仕事ぶりだ。このほかにも、アオバトやヤマドリが捕食された痕跡を見つけている。猛禽類が活発に動いている様が見て取れる。ケモノに見られる現象とは対照的な感じを受ける調査行であったが、ここで話を少し戻してみよう。
 猛禽類の食事跡を記録しているそのとき、獣数メートル先で川を覗き込んでいた杉さんの「カワネズミ、早く早く」という叫び声をきいた。私は取るものも取りあえず杉さんの基へ急ぐ。このときの顛末は、杉さんの森便り に詳しい。 実は以前にもこの沢の上流でカワネズミに遭遇している。出会いはいつも突然で瞬間的だ。しかし今回は少しばかり事情が違っていた。カワネズミは小さな淵から30cmほどの落差のある落ち込みの中へ姿を消した。ここは岩盤なので行き止まりのはずなのだが、なかなか姿を見せない。といっても数十秒、せいぜい1分程度なのだろうが。と突然、落ち込みの泡の中から20cmほどのゴギが飛び出してきた。とはいえ最初は何が飛び出してきたのかわからなかったというのが正直なところだ。オレンジ色のものがのたうち回っているのだが、よく見るとそれはゴギでそのゴギに灰銀色のものが食らいついているのだということがわかるまでに一瞬の間があった。カワネズミがゴギに食らいついているのだ。写真写真と思いつつ夢中でシャッターを切った。しばらく格闘は続いていたが、やがてカワネズミは諦めたのか我々の存在が気になったのか、ゴギから離れて、上流へ駆け上っていった。しばらくは先ほどの落ち込みに姿を消したが、そこから出てきたかと思うとさらに上流へ滝登りを敢行し、岩陰に姿を消した。すぐにその岩の下を調べてみたら、いくつかの隙間が空いており、そこが巣穴につながっているようで、この先姿を見ることはできなかった。
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kawanezumi-1 さて夢中でシャッターを押した結果だが、家にかえってよくよく調べてみると、画像は水でゆがんでいるものの、尾びれと尻びれの間あたりに腹側からかみついているカワネズミと仰向けになってオレンジ色の腹部をみせているゴギが確認できた(写真中央部、原盤でないと難しいかも、下は拡大した写真)。獲物が大物過ぎたのと食らいついた位置が悪かったことで、小さなカワネズミが振り回され、仕留めることがかなわなかったようだ。
 一見、生物の気配がないような沢であるが、丹念に探してみると案外多くの痕跡や事件が起きていることに気づかされた一日であった。 陸棲のケモノにとっても水辺という環境は特に重要な意味を持っているに違いないと言うことを改めて感じた次第である。
 ということで、まあまあ実りのある調査行でした。
 
 編集・金井塚務 発行・広島フィールドミュージアム
この調査は、広島フィールドミュージアムの活動として行っています。当NGOは細見谷渓畔林を西中国山地国定公園の特別保護地区に指定すべく調査活動を行っています。特にツキノワグマにとって重要な生息地であり生物多様性に秀でた細見谷渓畔林域はツキノワグマサンクチュアリとして保護するに値する地域です。
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細見谷にクマの痕跡を追って-HFM エコロジーニュース115

 年々歳々、ツキノワグマの中核的生息地と言われている、細見谷流域でも痕跡が希薄になりつつある。その一方で、集落周辺への出没が問題視されているのも事実である。クマの集落への出没は、多くの場合、個体数の増加と山の実りの多寡と関連づけて報道されているが、どうも実態とは大きな乖離があるという不快さをぬぐいきれない。
 秋晴れの9月27日(日)、細見谷流域のクマの動向を把握するために定例の調査に出かけた。今年のクリ、ミズナラ、ブナなどの堅果類もミズキなどの液果類も、実りはまだら模様だ。つまりあるとろでは豊作模様だし、またあるところでは不作ないし凶作といった状況である。
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 上の写真は、8月のウワミズザクラに残っていた今年の爪痕である。幅9~10cmあり、やや大型の個体(おそらくオス)の 爪痕である。とはいえ、実の具合に比べても痕跡はそれほど多くはなく、生息密度が低下していることがうかがえる。そのことを裏付けるかのような現状がクリ、サルナシなどの利用状況にも見て取れる。今年、クリは豊作とまでは行かないまでもそこそこの実りがある樹がある。
 細見谷の手前、主川流域(国道488沿いとその周辺)では、わずかにクリの食痕とクマ棚が見つかったのだが、それでも利用度は高くはない。ということは利用するクマが少ないということだ。
autumn-7autumn-16これまで、クマの生息地が拡大の一途をたどっており、それに比例して推定個体数も増加傾向を見せている、と理解されてきた。少なくとも公式にはそのような見解がとられている。しかし、肝腎の個体数推定の方法の信頼度は未だ未知数なのだ。それは多くの非現実的過程に基づいた仮定をとらざるを得ず、ある意味やむを得ないことなのかも知れない。しかし出没地域が拡大すれば、主要生息域での推定値が大きく減少しない限り、増加傾向となるのは、この手法から導かれる必然の結果となる。
 フィールドでの継続観察からすれば、奥山の本来の生息地では空洞化が起きているというのが実感なのだ。
たとえばクマの中核的生息地とされている細見谷渓畔林では、予想に反して、クリもミズキ、クマノミズキもサルナシもクマに食べれた形跡がない。クマだけではない、テンやアナグマなどのほ乳類の痕跡はおしなべて希薄である。
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 上の写真は細見谷渓畔林で見つけたヤマブドウである。細見谷でこれほどまでにたわわに実ったヤマブドウを見たのは初めてである。他の株はそれほど実をつけていなかったのだが、川沿いにあるこの株だけは、豊作である。しかしこれを食べる鳥もケモノもいないことが、なんとも不気味である。サルナシもまだ未熟とはいえ、食べられないままに残っている。こうした傾向はここ数年続いている。集落周辺でのケモノの賑わいぶりとは対照的な静けさは、ケモノたちの生息地が奥山から一次生産が利用されなくなって総体的に生産力が高くなった集落周辺の二次林へとシフトしていることの現れと見るべきなのだと思う。autumn-14






 

HFMエコロジーニュース114

難航した細見谷調査行
 細見谷渓畔林を舞台に、某TV番組の取材が進行している。ここに生息しているツキノワグマの生態もその対象となっており、真夏の渓畔林に稔るウワミズザクラの果実を目当てにやってくるクマの姿を記録するために設置したカメラを回収すべく、22日土曜日に入山することにした。
 道々、予想通りウワミズザクラの食痕が確認できたので、大いに期待してカメラの回収に向かったのであるが…。
 林道入り口まで来ると、工事中に付き通行不可の看板が出ているではないか。一抹の不安を抱えながら、とりあえず林道へはいる。と、500mばかり入ったところで、生コン車と出会う。道は狭く離合はできないので、仕方なくバックすることに。ようやく離合できる場所まで来て、運転手さんに様子を聴くと、崩落した路肩の工事だそうで、この少し先が現場だという。現場には重機も置いてあって通り抜けはできないとのこと。とはいえ、このまま引き下がるわけにはいかない。台風の心配があって、これ以上カメラを放置しておくことはできない。かといって、歩いて行くには遠すぎる。
 残る手段は、十方山を迂回して安芸太田町側の二軒小屋方面から入る方法があるのだが、こちらの道路事情は極めて悪く、どこまで入れるか心配である。が、それしか方法はなく、やむを得ず数十キロを迂回して内黒峠を経由して現場へ行くことにした。
 安芸太田町側の十方山登山口までは何とか車が通れるだけの整備はされている。問題は水越峠をこえた廿日市市側の林道状況だ。案の定、とても走行できる状態ではない。大きな石が積み重なった林道は道と言うより川底といった方がいい。それでも何とか下山林道分岐まできた。ここから先は、よく知った道なので一安心と入ったところだ。
 12時少し前に、現場到着。何を置いてもカメラの回収に向かう。細見谷川を渡り、トチの巨木が茂る谷の小さな支流沿いに仕掛けたカメラの回収に向かう。予想通り、ウワミズザクラの食痕が確認できた。が、肝腎のカメラがひっくり返されている。本体は無事だったが、雲台のパン棒のとって部分がしっかりとかじられていた(写真)。_8220004レンズ部分が下側になっていたので、どこまで写っているか、いささか心配である。もう一台は沢の上流を向けて設置しており、こちらは無事であった。クマは下流方面からやってきたのかそれとも上流方面からやってきているのか、はたまた全く予想外の動きをしていたのか、まもなく明らかになるだろう。
 さてカメラはなんとか回収できたので、早々に引き上げることにした。帰りは、道路状況を考えれば工事現場を通らせてもらうしかないだろうと言うことで、細見谷渓畔林の状況を観察しながら吉和西出口方面へ向かう。
 渓畔林を抜け、まもなく山の神というところで、大変な事態になっていた。法面崩壊である。規模こそ大きくはないが、大きな落石が道の真ん中にあってとても通り抜けることはできそうにない。道の左側は川で、路肩は5mほどの崖になっている。さてどうするか、思案にくれた。Uターンできるところまでバックし、来た道を延々と帰るか、何とか落石を除くか移動させて通り抜けるかである。
 杉さんとしばし検討し、持てる工具を使って通り抜けることにした。時刻は12:45。林道工事の休憩時間に通過させてもらう予定だったが、これはもう無理だ。それより本当に通り抜けることができるか、そちらの方が心配である。あと20cmちょっと大きな石を法面側に移動させればぎりぎり通り抜けることはできそうだ。それでも路肩が崩落すれば一巻の終わりである。
 車に積んであったのこぎりで倒木を切り出して梃子にし、ジャッキで持ち上げてこじると少しだけ大きな石も動く。さらに石頭で角を落とし周囲の石をのけてさらに同じ行程を繰り返すこと1時間あまり。なんとか車が通れそうな幅を確保することができた。杉さんに路肩の状況を見てもらいつつ石に当たらないようにゆっくりと車を進め、無事通過。ここを通過してしまった以上、工事現場を通してもらえないと大変なことになる。何しろもう二度と崩落現場は通過できそうにないのだ。
 幸いなことに、工事現場で事情を話すと快く重機を移動させ、通過させてもらうことができた。
 で、話はこれで終わりではない。これからが本論である。
 ツキノワグマは秋にブナ科のドングリを採食することが知られている。ブナの果実もその一つなのだが、ブナは夏の終わり、すなわち8月中下旬頃から食べているという我々の仮説の確認である。ブナに関してはどうもかなり早い時期から未熟な実を食べているらしいことはわかっていた。それはこの仮説を推測させるにたる食痕の状況からの判断で、実際に夏の終わりにブナのクマ棚を見つけたというものではない(杉さんは過去に確認しているとのこと)。
 林道を抜けて、尾根一つ越えた細見谷川水系の沢に入ってみることにした。ここは秋になるとゴギが産卵に集まる沢で、クマをはじめタヌキ、アナグマ、ホンドイタチなどのケモノが翌姿を見せるところでもある。ここ数年、台風や集中豪雨の影響で、倒木が多く、沢の様子は大きく変化してきている。今年は川底に細かい泥土が堆積しており、やや心配な状況である。そしてまた、ここはブナやウラジロなどの採食地となっており、ツキノワグマにとって重要な場所である。
 今年のブナは樹によってかなりばらつきがあるが、ここのブナには豊作となっているものがある。そのブナに新しい棚ができていた(写真)。
_8220024_8220022_8220012このブナはクマが好むのかよく棚ができている樹である。同じブナでもクマが利用する樹とそうでない樹とある。その理由は定かではないが、平均値ばかりを追いかけている生態学もどきではこの違いは無視されてしまう。
 樹の幹には大小2種類の爪痕が残っていた(写真、右下にコドモの爪痕、左上にオトナの爪痕が見える)。親子のものであろう。先日、カラマツ林で遭遇した親子なのかも知れない。直線距離にすれば1Kmほどの近さである。食痕の鮮度からして、この数日の出来事のようだ。
 クマサルもそうだが、稲穂が熟して実が堅くなる前のジューシーな時期に田んぼの稲を食害する。おそらくブナもそうしたジューシーな果実が好みなのではないだろうか。だからといって、熟したブナの実を食べないわけではない。周囲の状況、つまりウワミズザクラの果実だとかアリやハチ、アブなどの昆虫類の多寡などによって、臨機応変に振る舞っているということなのだ。
 大変な調査行となってしまったが、実りも多い1日であった。

 編集・金井塚務 発行・広島フィールドミュージアム
この調査は、広島フィールドミュージアムの活動として行っています。当NGOは細見谷渓畔林をに西中国山地国定公園の特別保護地区に指定すべく調査活動を行っています。特にツキノワグマにとって重要な生息地であり生物多様性に秀でた細見谷渓畔林域はツキノワグマサンクチュアリとして保護するに値する地域です。
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HFMエコロジーニュース113(通算270)

アカショウビンの巣作り
 前回の調査行では、ミゾゴイのペアを発見していたので、その後の状況を把握しようと出かけたのだが、あいにくミゾゴイとの出会いは果たせなかった。今、細見谷渓畔林を題材とした某自然番組の取材中なので、その素材探し(とはいってもツキノワグマの暮らしをメインに考えているのだが)に余念がない。
 樹の花もその一つなのだが、梅雨を前に細見谷渓畔林にはヒメレンゲ、ラショウモンカヅラ、ヤグルマソウ、ミズタビラコ、チャルメソウなどが水辺に彩りを添えている。
これらの写真は「細見谷渓畔林調査行」
でご覧いただけます。
 氾濫原の水たまり(池)にはおびただしいヒキガエルのオタマジャクシがうごめいたいる。姿は見えないものの、タゴガエルの笑い袋のようなクヮッ、クヮックヮッッとい声や玉を転がすようなカジカの声に混じってモリアオガエルの声も聞こえる。森の奥からは、エゾハルゼミの声やオオルリの囀りが聞こえてくる。林道の水たまりでは、ミヤマガラスアゲハの吸水行動が見られ、久しぶりに細見谷に生き物の息吹を感じることができる賑やかさが少しではあるが戻ってきたようだ。
ただ、クマの痕跡は相変わらず少ない。が、それでも、シシウドやオタカラコウなどを食べた真新しい食痕を確認することはできた。6月10頃には熟したヤマザクラの果実を食べに姿を表すに違いない。そして、ミズキもウワミズザクラもまあまあ豊作になりそうな気配を漂わせている。
hosomi-5290052細見谷川をさかのぼっていると、それほど遠くないところから、<キョロロロー、キョロロロー…>とアカショウビンの声が聞こえてきた。
 しばらくその声のする方向を確かめようと、待っていると、今度はさらに近くからも聞こえてきた。そしてその鳴き声は鳴き交わすかのように、2カ所から交互に聞こえるではないか。どうやらすぐ近くにペアのアカショウビンがいるようだ。鳥に詳しい杉さんが、おそらく巣作りをしているのではないかと言う。アカショウビンは、キツツキ類のように樹の幹に巣穴を穿って、育雛するのだが、堅い生木を穴を穿つ力はない。多くの場合、ブナの枯損木など腐朽がある程度進んで柔らかくなったものを選んで巣作りをするらしい。と目の前の斜面正面になるほどお誂え向きのイヌブナの枯損木がある。そのイヌブナは幹の途中で折れ、立ち枯れているがそれほどふるくはない。正面に小さな穴が空いていて何かの巣穴のようにもみえる。これかと思ったがこれは思い違いだった。と、この枯損木のすぐ近くに一羽のアカショウビンが止まっているのを見つけた。すぐにカメラのレンズを望遠に取り替え、狙うが、やはり少し暗い。なるべくぶれないように絞りを開放にしてシャッタースピードをあげるが、限界である。梢に止まっているアカショウビンをレンズ越しに観察するが、赤いくちばしの艶が見事である。と、枝から飛んだとおもったら、すぐに元の位置へもどる。こんなことを3回ほど繰り返したあと、さっと飛び立て例の枯損木に向かった。とおもったら姿が消えた。えっ、と思っていると、突然赤い何かが幹から飛び出してきて、先ほどの梢にとまった。やはり、アカショウビンはあのイヌブナに巣を掘っているにちがいない。今度は心の準備ができているので、巣穴とおぼしきところに焦点を合わせて待っていると、一直線にアカショウビンが小さな穴に飛び込んでいくのが見えた。ただし、おしりの一部が見えている。飛び込んで穴の入り口に留まり、上体を穴に突っ込むとすぐにUターンして飛び出していくことを繰り返している。うまくいけば、ここで子育てをするに違いない。それを思って、なるべく邪魔をしないよう長居することをやめた。これからが楽しみである。もしかしたら、このよう巣はテレビを通じて皆さんにお届けできるかも知れません。乞うご期待。
hosomi-5290053hosomi-5290052広島フィールドミュージアムではこうした細見谷渓畔林での調査を行っています。絶滅の危機が迫るツキノワグマ始め生物多様性を維持するために、西中国山地国定公園の特別保護地区への指定を目指しています。こうした保護活動へのカンパなどのご支援をいただければ幸いです。
カンパ送付先は、広島銀行宮島口支店、普通 1058487
広島フィールドミュージアムです。
今年は、自動撮影(動画)装置を使用して、ツキノワグマの魚食と細見谷における生物の活動記録を中心に調査を行う予定です。




HFMエコロジーニュース112

<ミゾゴイにであった>_4240099
 雪もようやく消えたようなので、久しぶりに細見谷へ出かけてみた。この春初めての調査行であった。最近の細見谷は台風やどか雪のせいで林道も荒れ気味だから、どこまで入れるか少し心配していた。吉和入り口から下山林道入り口までは、どうにか倒木を処理しながらでも進むことができた。入り口付近でクロツグミの囀りが聞こえてきたものの、野鳥の声はソウシチョウ以外はほとんど聞こえてこない。まだ少し早いのだろうか。
_4240046 クマをはじめとするケモノたちの痕跡もノウサギのフンを見ただけでめぼしいものは見つからない。一つだけ、ブナの幹にできたクマの痕跡かも知れないひっかき傷が目についた程度で、この数年間と同じく、気配が薄い。
 それでも、足を運べばそれなりの収穫はあるもので、ヤマザクラやオオヤマザクラが満開だったのはうれしい限りであった。サクラの開花に関しては福島県北部地方に匹敵する。また、渓畔林の一部にはニレ科のクマシデ、イヌシデなどが優占している林分があり、これも東北南部の植生に重なるようだ。
 サクラの花を愛でつつ、落葉林を眺めてみると、芽吹きの時期が樹種によって明確に異なっているのがわかります。ただこの時期の差は、1-2週間ほどですから、時期を逃すとそれが目立たなくなるようだ。4月24日はその違いを知るにちょうどよい時期だったようだ。写真でもわかるように、イヌブナとブナとでは芽吹きの時期がずれている。ブナは既に芽吹いて淡い緑色のパステルカラーの若葉を展開しいるが、イヌブナはまだまだ葉がでていない。芽吹いているのは、ウワミズザクラ、リョウブ、カツラくらいで、ミズナラやトチ、ホウノキ、オヒョウ、サワグルミなど渓畔林の主役たちはまだもう少しかかりそうだ。

_4240119 そんな目で森を眺めながら、林道を渓畔林へゆっくり進んでいたら、前方をかなり大きな鳥がフワッとした羽ばたきを見せて森へ消えていった。猛禽類のようでもあったが、もう少し羽ばたきが緩やかでソフトな感じがした。ゆっくりとカーブを曲がると、正面に首を伸ばしてたたずむ鳥が見えた。どうやらペア(つがい)でいたのだろう。残った一羽のその容姿を確認したいのだが、日陰に立っている上に背景の日射しが強く、逆光の中での確認は難しく、正体がつかめない。ただ、首を伸ばしてたたずむその姿勢から「ミゾゴイ」らしいことがわかり、一同興奮状態におちいった。
 幸い、逃げもせずじっとしているので、こちらも車を止めて観察し、撮影を行った。こちらがゆっくりと動くと距離をたもったままそのミゾゴイもゆっくりと歩き出す。とまってこちらを振り返り、逃げるでもなくたたずんでいる。なんと贅沢な観察会なのだろう。日向に出たミゾゴイの背中の色はやや明るめのチョコレート色にムラサキ色がかぶったようで、なんとも独特な色合いをしている。
 実は同じところで帰りにも出会ったので、これまた幸運というべきである。おそらくこの付近で営巣し、子育てを行うのではないだろうか。もしそうであれば、ビッグニュースである。 ミゾゴイの詳しい生態は、川名国男さんが専門家としてよく知られているとのことなので、そちらを是非参照してほしい。
 ミゾゴイは広島県版でも環境省版でも絶滅危惧Ⅱ類とされているが、その生息情報はほとんどない。なぜ、それが情報不足ではなく、絶滅危惧Ⅱ類なのか、先の川名氏は疑問を投げかけている。その疑問はもっともなことで、広島県のRDB編纂にかかわった私が経験したところでは、IUCNなどのカテゴリー分類基準を援用して国際的な基準に近づけようとする意図があって、過去から現在に至る個体数の増減を基準にランク付けをするのだが、ほとんどの野生生物に関して、そうした議論ができるほどに調査されている種はなく、決定的に情報不足なのが現実なのだ。
 この現実を正直に公表して、野生生物の現状をフィールドワークを通じて把握することが、まず大事なことなのだが、自然保護は行政にとってお荷物でしかないという、お粗末な現状では予算もなく、マンパワーも不足するということで、わかったようなことを基にそれなりの権威でもって作り上げているのがRDBなのである。
 とはいえ、細見谷でミゾゴイが繁殖しているとすれば、これを大事にしていく必要がさらに増すことは間違いない。やはり、国定公園の中核地域として「特別保護地区」への指定は欠かせない。大規模林道計画が中止となった今、野生生物保護のためのサンクチュアリーとしようではありませんか。

この日に撮影した他の写真は以下のURLへアクセスしてみてください。

 https://www.facebook.com/media/set/?set=a.813862062025740.1073741839.100002058623983&type=1&l=4a3a31e916